夢月亭~下手の横好き~

夢月亭清修の小説&バス釣りブログ♪小説の更新情報・小説・釣行記録・その他諸々掲載してます★

小説:釣り一頁ss No.7 「今も昔も」  

    小説釣り一頁ssNo.7  『今も昔も』         夢月亭清修



 私の彼、A太にK介という幼馴染がいるように、私、M美にも、T子という幼馴染がいる。
 小中高と席を並べ、大学こそ別れてしまったものの、お互い地元に就職して以来付き合いが復活し、最近も彼女に会ってきた。
『ねぇ、お魚食べようよ』
 今回は電話越しに彼女がそう言いだしたことが発端だった。住むところがところなら、こんな誘いは「築地を見に行こう」とか「美味しい店の情報を仕入れた」といった話題に繋がるのだろうけれど、生憎田舎住まいの私達だ――築地は遥か彼方だし、魚料理を満喫しようと思ったら敷居の高い割烹料亭にでも入らなければならない。だから私の返答は喰い気味に『なんで?』だった。
『テレビで見たの! 鮎の塩焼き!』
 その言葉もさらに喰い気味で返ってきて――暫し沈黙した後に私の溜息が電波に乗せられる。
 非常に残念ながら、私に当てが無いわけでもなかったのだ――。

 そんな経緯でT子を管理釣り場に連れて行った。
 管理釣り場――昔風に言うなら『釣り堀』だ。山奥を流れる川幅三メートルの源流に岩を並べて作った堰がいくつも設けてあり、透き通る水がその堰を乗り越える度に勢いを増し、白い気泡を含んで魚達を隠している。
 辺りは木々生い茂る野性味溢れた情景で、初夏を感じさせる日差しもここでは陰に負けて木漏れ日と言うのが相応しい。
 車から降りて呑気な欠伸をしながら「わぁ、綺麗なところ~」とT子は言った。
 このやろう……二時間の道程をほとんど寝て過ごしやがって――ちょっぴり怒りたかったけれど、豊かな景色が慰めてくれるおかげか、溜息を零すに留まった。
 ともあれ、私はロッジで借りた竿に餌(イクラ)を付け、それを魚の居そうな岩陰に流し込んでゆく。T子は見様見真似で糸を垂らしていた。
 魚の反応はとても良くて、思っていた以上に流れの強いポイントで食ってくる。クルリと反転してそれを知らせる糸に付けた目印――糸の動きをよく見てアワセていく。
 あっと言う間に私の魚籠は魚でいっぱいになった。その様に覚える満足感が、私の頬を緩めるのは言うまでもない。そうして――
「T子、どう? そっちは釣れてる?」
 しばらく自分の釣りに夢中になってほったらかしてしまっていた。T子は釣りなんて子供の頃以来だろうから、本当はレクチャーした方が良かったのだけれど、でも――
 気が付けば彼女は持参のレジャーシートに仰向け、顔を麦藁帽子で隠していて――。
「……また寝てる……マジで?」
私は今日一番の深い溜息を吐いて、あれこれと準備を整え始めた――。

 焼ける魚の匂いに反応したのか、T子が深い眠りから目覚めたのはちょうど焼き上がる頃合いだった。T子のレジャーシートの前には背の低い焚火グリル(私が用意し火を起こした)が設置されており、彼女にしてみれば全てが整えられてあったと言えるだろう。
「わぁ! 美味しそう!」
 目を輝かせるT子に私はまた溜息を吐く。ちょっとは手伝いなさいよ、とのお小言は、全てが済んでから言うには遅いように思った。
「ほら、そのまま食べれるわよ」
 促して、彼女は串を手に取った。あち、あち、と、ふー、ふー、がほとんど同時にその口から零れている。
 そうして魚の背に思い切り歯を立て頬張る様は、アウトドアに疎い癖に、こと食べ方となると流儀を知っているかのよう。いや、本当は食い意地が張っているだけなのだろうけれど……。
「美味しい?」
 問い掛けに、T子は大きな瞳をもっと大きくさせて頷いた。
「美味しい! 鮎最高!」
 嗚呼、そう言えば目的は鮎だったっけ? 私は思い出し、誤解を解いた。
「これは鮎じゃないよ。虹鱒
虹鱒最高!」
 どっちでもいいらしい。まぁ、きっと串打ちのアウトドア感があれば何でも良かったのだろう。私も彼女を真似て、思い切り頬張ってみた――うむ、我ながら完璧である。
「M美はいいお嫁さんになるねぇ」
 T子のその一言が私を綻ばせる。お世辞に舞い上がっているわけではない――昔は単純に喜んだものだけれど、今私が覚えるのは懐かしさだ。
 嗚呼、そうそう、昔からこうして世話を焼けば、彼女は決まって私を褒めそやす。変わらない彼女の口癖というか、条件反射というか――今も昔も、T子はT子なのだなぁという感慨が嬉しい。
「あ、それなんだけどね…」
 ここで私の言うそれは「お嫁さん」である。この日、私は彼女にA太との婚約を知らせたのだ。
 私の知らせに彼女の顔がくしゃりと歪んだ。
「え? ちょ、ちょっと…どうしたのよ?」
 ぽろぽろと涙を流すT子の反応は意外で、さすがに付き合いの長い私も慌てふためいた。
「ご、ごめんっ――え、なんで? どうして?」
 意味も解らず謝罪を口にする。そんな私に、T子は首を横に振った。
「違うの……嬉しくって…」
 震える声がそう告げて、私の胸にも泣きたくなるような暖かさが染み渡った。
 でも――続く彼女の言葉に、私の感情は反転する。
「私、M美が一生独身で過ごしちゃうんじゃないかって心配だったの……だって、M美って昔から全然モテないんだもん……」
 さすがにカチンときた。溜息? いいや、ここはさすがに怒ってもいいだろう。
「あんただって人のこと言えないでしょ!」
 マイペースで、甘え上手で、そのくせ余計な世話を内側に秘めているT子は、二十代も後半にさしかかる今尚、相変わらずであったのだ。

                 ――了
前話→釣り一頁No.6


にほんブログ村

にほんブログ村
小説ブログ「白蓮」の管理人、たおるさんから頂いたコメントをネタにNo7が出来ました!

T子の滲み出る末っ子感を楽しんでいただけたら幸いです。笑


最近仕事が忙しくて全然釣りに行けてません……ブログの更新も……

そんな中で書く釣りの話はどうにもムズムズします。

Posted on 2016/03/03 Thu. 18:20 [edit]

category: 小説:釣り一頁(つり1ページ)ss

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説  釣り  虹鱒  管理釣り場 
tb: --   cm: 8

コメント

こんば( 'ω')ノんは。

読ませていただきました~。
今回は男の人は出てこなかったのですね。かえって新鮮でした。
管理釣り場編…てっきりルアーかと思ったらエサ釣りとは(笑)
初夏の清流での釣り…良いですね~。シーズンが待ち遠しくなりますよ。
それにしても管理釣り場で釣りもしないで寝てるなんて…料金がもったいないと感じてしまった僕は貧乏性(笑)

URL | いぬふりゃ☆ #-
2016/03/03 19:24 | edit

わ!わ!M美ちゃん釣ってきてくれたんですね!!ありがとうございます!嬉しいです!
ヽ(=´▽`=)ノ
T子ってたおるのTですか!? いや…まさか…でも私T子ちゃんと似たようなこと言いそうだ(-_-;)
実際築地でお魚食べたいです(爆
そしてその理由がテレビで見た、ってことも多いですorz
そしてそして、よく寝ます(
なんすか!夢月亭さんは私のこと知ってるんですか!?Σ(゚Д゚)

イクラって釣りの餌になるんですね。
高いのに……。針に刺さるんですか??ぷちって割れてしまいそうな……。

鮎は釣るの難しいんですね。うちの近くに川があって近所のおじさんがたまーに鮎を釣ってきてくれることがあるんですが、あのおじさん、釣り上手いんですね。。。(

そしてM美ちゃん婚約おめでとうです!
なんとなんと、いつのまにそんな仲に♪

夢月亭さん忙しそうですね……。
またお休みが出来て釣りいけること祈ってます!&ブログ更新もまってます☆

URL | たおる #-
2016/03/03 23:05 | edit

Re: タイトルなし

>いぬふりゃ☆さん
おはようございます!
いやぁ、最初はルアーで考えていたんですが、山奥にあるエサ釣りメインの管理釣り場って景色が綺麗だしBBQ自由なところが多いんですよね^^
今回はそれを書きたくてエサになっちゃいました。w

貧乏性というか、たぶんそれが普通の感覚ですよね。笑
僕もそう思います。
T子がちょっとずれてるみたいです^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/03/04 07:11 | edit

Re: タイトルなし

>たおるさん
おはようございます!
M美ちゃん、頑張りましたwそしてT子のTはたおるのTです♪
そんなに似ているところがあるんですか?
だとしたらたおるさんも相当な末っ子気質かもしれませんね。笑
(末っ子気質と言っても僕のイメージの中での末っ子ですが……w)

そうそう、テレビで築地を見ると行きたくなるんですよね~。
海鮮丼とかイクラ丼とかめちゃめちゃ美味しそうで……
そういう欲望がうっかり文章にも表れてしまいました^^

イクラは案外針で刺しても平気なんですよ~。
針に付ける時に自分の指で潰しちゃうこともありますが(・´ω・`)ゞ

鮎は僕も経験が無いのでなんとも言えないのですが、釣り方も特殊で難しそうなイメージです。
たぶんそのおじさんはお裾分けするぐらい釣っているので名人かもしれませんね。

M美とA太、ほんと、いつの間にですよ。笑
時系列で考えると婚約まで一年かかってないかも知れません……そう考えると気が早いような…w

お気づかいありがとうございます!
仕事も趣味も頑張ります♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/03/04 07:23 | edit

二回目コメント失礼します!
TはたおるのTでしたか!嬉しいですヽ(=´▽`=)ノ
私のブログでこのお話、紹介させてもらっていいですか??ドキドキ(*´ω`*)
夢月亭さんのお話に登場しちゃったこと自慢したいです♪えへへ(*´∀`)

URL | たおる #-
2016/03/04 21:25 | edit

Re: タイトルなし

>たおるさん
こんばんは!
是非是非、紹介してください♪
喜んでもらえてうれしいです^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/03/04 23:39 | edit

子どものころ

うちの父は釣りが大好きで、たまに連れていかれました。
カマスかなんかをたくさん釣った、子どものころの思い出があります。

父は早くに亡くなり、短気な私は釣りは苦手に成長しましたが。

ふむふむ、T子さんはたおるさんなんですね。
私も「たおるちゃん」を書かせてもらいましたので、親しみを感じます。

ところで、リンクさせていただいてよろしいでしょうか?
夢月亭清修さんのブログも、これからじっくり読ませてもらいますね。

URL | あかね #-
2016/03/06 12:05 | edit

Re: 子どものころ

>あかねさん
こんばんは!
読了ありがとうございますm( )m
海釣りの好きなお父さんだったんですね♪
僕が釣りを知ったのも初めは父の影響でした。

短気とのことですが(笑)釣り一頁ssは釣りの良いところばかりを抜粋して書きますので、釣りに良い思い出のあるあかねさんなら楽しんでいただけるかもしれません^^
気が向いたらまた読んでやってください♪

男性キャラをよく知らなかったのでコメントを控えてしまったのですが、「たおるちゃん」のお話読ませていただいてます。
なるほど、そういう風に「たおる」をもってくるのか!と感心してしまいました^^

ありがとうございます!是非是非、当ブログをリンクしてください。
こちらでも「茜色の森」、よろしければリンクさせてほしいです^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/03/06 22:30 | edit

コメントの投稿

Secret

FC2カウンター

プロフィール

カテゴリ

Twitter

最新記事

月別アーカイブ

最新コメント

ブログ村ランキング(小説)

メールフォーム

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード