夢月亭~下手の横好き~

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小説:朱鷺端境抄(ときはざかいしょう) 『朱松骨董品店』  

   朱鷺端境抄          夢月亭清修


『私は朱鷺――元は人、今も姿形こそ人の女なれど、その本質は定かならぬ。
 今ではないいつか、此処ではない何処かにて、石を拾って成り果てたが今の私と言うモノで――世界と世界の端境を歩み、ただ歩んで進むだけの女、それが私。その在り様に意味も、目的さえも見出せぬまま歩き続けている。
 嗚呼、いったいどれ程の世界を歩いたことだろう――。
 私をこのような存在へと変えてしまった石は、今も我が懐にて孵らぬ卵の如し。黒く艶光り、妙に人工物のようでいてさに非ず。
 この石、ぬらりの翁の星の丘に降る隕石とのこと。私は今、星の丘を目指している――』


  『朱松骨董品店』

 賑わい無き裏路地もまた裏路地に、何故か一軒の骨董品店あり。
 その煤けた弁柄格子の佇まい――「さぞ閑古鳥の鳴く店に違いあるまい」との想像は迷い人あらば三文判の如しであるが、さりとて扱う品々は《怪奇物品》ばかりとあって、通常《人》の来客など受け付けてはおらぬ。
 時折何を間違ったか足を踏み入れてしまう《人》もあれど、皆ロクな目に遭わない――化かされたりする程度なら可愛いモノで、中には発狂した者もあれば命を落とした者も――。
 その店、名を朱松骨董品店と申す。

 店の店主である骨のような老翁は腹巻に片手突っ込んでいい加減なはたき掛けの、店内を所狭しと並ぶ怪奇物品の手入れ、その日課の最中であった。
「………はて…銀狐や、その女は誰だろうな?」
 老翁が「銀狐」と呼ぶは壁に掛けられた一枚の絵画――妖狐の住まう異界がそれそのまま絵と切り取られた怪奇物品の一つである。
 絵の中で妖狐は雪花石膏(アラバスタ―)のような艶めかしい裸体を晒し、一人退屈そうに伏せているのが常であったが――はて、不思議な――今はその隣に女が一人正座している。
 女は肩から先の無い藍染の胴衣とカルサン袴という時代錯誤な出で立ちで、絵の中にありながらも凛とした眼差しで正面を見据えていた――何か、物申す心積もりと見て取れるような。
 その隣で「銀狐」と呼ばれし妖狐はどこか不貞腐れ顔の、どうやらその女の存在が気に食わないらしい。
 老翁はその様しみじみと眺め、絵の中に闖入者があらわれるとは……これは稀な現象に出くわしたもの――と自身の発見に「ほぅ」と感嘆を漏らしつつ、まぁこれも手入れの内と腹巻に刺していた左手をずぶり、と絵の中へと突っ込んだ。
絵画が一つの世界として存在するならば、老翁の左手は二つの世界、その端境を超えていよう。これは如何な妖術か、否、絵画はそもそも外から人を招き入れる世界なのだ。「銀狐」は好みの若い男を魅了しその世界に招き入れ、精と生を思う存分弄ぶ妖魔――怪奇物品の中でも取り分け性質の悪い一品である。
 老翁はその勝手知ったると手慣れた手付で、絵の中の闖入者の腕を掴んで引っこ抜いた。
 ずるり――と、女が絵の中から上半身を出す。
「ぷはぁっ」
 水の中にでも潜っていたような息継ぎをして、後は己で、両手を壁に付き下半身を押し上げる。
 そうして女、軽やかに床に足付けて、己を引き抜いた老翁に深々と頭下げて曰く。
「ありがとう御店主――どうにも絵から抜け出せず困っておりました。私は朱鷺と申します。旅人、のようなモノです」
 これに老翁、ふむ、と頷いて曰く。
「随分と変わった旅人のようだねぇ…いやいや、銀狐が絵の中に男以外を招くのは珍しい。驚いたよ」
 これに女、朱鷺は、少しばかり歯切れ悪く――勝手を知らぬ骨董品店の品物に無礼だったかと気まずげに言った。なにせ招かれて入った世界ではなかったが故である。
「いえ、その……招かれてはおりませぬ。迷い込んだのです……。蛍が沼という異界を遡りましたら、ある青年の淫夢に迷い込みまして、それが気が付けば絵の中に居たという顛末でして…」
「あ、そうかい、それで…」
 老翁は皆まで語らずも、その青年と淫夢に心当たりあって、そして図らずも、銀狐の不貞腐れた表情にも得心の回答を得た。
「どうりでねぇ、銀狐はおなごを好かんから……おや、見りゃやっぱり、随分とやられちまったようだね」
 老翁は朱鷺の肌に幾本も走る引っ掻き傷をみてそう言った。どうやら、この不思議な闖入者を嫌ってなかなかに暴れたらしい。まぁ、喰われなかっただけマシと言うモノであるが、その意を汲んだか朱鷺が代弁するにはこう。
「ええ、おなごの肉はきらいじゃと言うておりましたが、そもそも女ならば虐め倒したいと言った様子でして――まぁ、早いうちに引き出していただけたので助かりました」
 老翁はその傷に「消毒でもするかえ?」と問うたが、これに朱鷺は首を振る。「異なる傷ですが、私の異なる肌も直ぐに直りましょう」――と。

 さて、店内で差向う二人、今は茶の湯など沸かして腰を落ち着けていた。粗茶とは言えなぜ持て成されるかと朱鷺、少し訝しんではいたものの、聞けば老翁の本分であるところの商売は、商売と言うより渡し役と言った方が的を得る。
 そう、彼は渡すのだ――どことも知れぬ世界から店に流れ着く怪奇物品を、それを必要とするまた異なる世界へと、時には異なる存在へと、渡す。
 だから彼が言うにはこう。
「うん、この店は品々にとって中休みの為の場所なんだろうよ。ワシもこの店に憑いて何百年か解らんが、ありとあらゆる品を様々に渡したもんだ……だから、あんたみたいな訳解らん奴が、まぁこの店の正しい客さね。皆どうしてこの店を訪れたものか、それ縁の導き以外には無い。端からこの店に来ようと思って来る奴なんざいないのさ。だからあんたもきっと客なんだろうよ。この茶一杯分ほど、ワシに語ってみてもよかろう」
 そう促されて、ならばと茶の湯に口を付け、朱鷺は己の在り方を語って聞かせた。懐にある《星の丘の隕石》のこと――ただその導きにて異界から異界を歩み続けていること――そして、今は《ぬらりの翁の星の丘》を目指していること、それに意味も目的も見出せていないことを、聞かせた。
 翁はその全てを沈黙で受け止め、ならばと店内の片隅より差し出したモノがある。それは――
「こいつはね、夢渓羅針銅(むけいらしんどう)と言う」
 風変りな、掌に乗る大きさの羅針盤――コンパスであった。磁針もベゼルも、ありとあらゆる部品が赤茶けた銅製の、不可解な文字はその銅に彫られて読み解けず、道具と言うよりは呪具との印象が強い。その夢渓羅針銅を、老翁は朱鷺へと差し出した。
「これを持ってゆくといい。ここは現世だから、これがきっと次の端境まで役に立つ。これはありとあらゆる存在から縁を導いて指し示す、おかしな羅針盤よ」
 朱鷺がそれを両手で受け取れば、その裳裾の内で星の丘の隕石がぶるりと身震いするかに震えた。それが共鳴的な反応と直ぐに知れたのは、また同時に、羅針銅をぐるりと囲むべゼルが独りでに回転し始めたが故である。
 やがてピタリと止まって方位を指し示す夢渓羅針銅――その方角に何があるのか、朱鷺、今は知る由も無し。しかし老翁の役目が渡すことにあるならば、己は縁に従って受け取るまでと腹を括る。して、気になるのは対価――これを受け取って発生する義務か役割か、はたまた金であろうか。
 これに老翁、首を振って曰く。
「金は要らぬが義務も役割もあろう。羅針銅はこれを機にまた旅することになろうから、あんたからまた何者かに、これを渡すことが義務であり役割にもなろう」
 成程と、朱鷺は深く頷いて曰く。
「その対価、しかと承りましょう。夢渓羅針銅――これにはこれの、モノとしての縁がありましょうから」
 そうして、不可思議な羅針盤を手にして朱鷺は店を後にした。
 外に出てみれば見慣れぬコンクリートの道、どこの国の文化とも知れぬ佇まいで街は迷宮のよう――と朱鷺に映る。それでも、夢渓羅針銅はただひたすら北北東を指して迷わぬ。朱鷺もそれを信じ、疑いの曇りその心に一片も無し。
 この女、朱鷺、意味も目的も見いだせぬくせに、感じる縁にこれ程実直になれるとは――嗚呼、その存在、元は人なれど今は異と呼んで相応しい。



『私は朱鷺――元は人、今も姿形こそ人の女なれど、その本質は定かならぬ。
 今ではないいつか、此処ではない何処かにて、石を拾って成り果てたが今の私と言うモノで――世界と世界の端境を歩み、ただ歩んで進むだけの女、それが私。その在り様に意味も、目的さえも見出せぬまま歩き続けている。
 嗚呼、いったいどれ程の世界を歩いたことだろう――。
 私をこのような存在へと変えてしまった石は、今も我が懐にて孵らぬ卵の如し。黒く艶光り、妙に人工物のようでいてさに非ず。
 この石、ぬらりの翁の星の丘に降る隕石とのこと。私は今、石と共鳴し道を指し示す、夢渓羅針銅の導きを得たり――』

                                        ――了

前話へ→朱鷺端境抄『蛍が沼』  次話へ→朱鷺端境抄『芒の海のナロニック号にて≪手記≫』
☆―――――――――――――☆
「朱松骨董品店」は元々小説ブログ「DOOR」の管理人、Limeさんの描かれた『狐画』を元に書いたお話ですが、今回は自社内コラボと言うか、ブログ内コラボと言うか……朱鷺端境抄の舞台として使いました。(ちなみに、朱鷺端境抄は幻創文庫で連載中の『妖・密事シリーズ』の外伝のような小説です)

元となった「朱松骨董品店 『人食い銀狐』」の話はこちらです→朱松骨董品店『人食い銀狐』
hitokuiginnko.jpg
ちなみに、この絵を元にたくさんの書き手が掌編を書いております。

個性豊かな書き手が綴る掌編はどれも酔える世界観で、なんとうか、色んなカクテルのリキュールが並んだBARのカウンターみたいなことになってます。

その企画がこちら→妄想らくがき企画≪狐画≫

ぜひぜひ、こちらも遊びに来てください♪


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Posted on 2016/02/19 Fri. 19:55 [edit]

category: 小説:朱鷺端境抄

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説  掌編 
tb: --   cm: 6

コメント

こんばんぽ(*´∀`*)ノん

いいですね、夢渓羅針銅…。
かなり妖しいアイテムですが何かの縁のある方向に導いてくれるなら僕も欲しいです。
それでも僕は人外ではなく一応人間として存在しているので、僕が持っていても良い事は起こらないかも…??

あ、それと思ったんですが、書かれている「釣り一頁」のシリーズで、
例えばバス釣りのみならずその他の釣りをやってみるというのはどうでしょう??
管釣りだったり、アジングだったり何だったり…
バス釣りでは男顔負けのM美さんが管釣りトラウトだとさっぱり素人で…とかいう話も面白そうですね(笑)
ま、ただの思いつきなんでサラッと流してください(^_^;)

URL | いぬふりゃ☆ #-
2016/02/19 21:38 | edit

浸ってしまいました

ああ~、いいですね、『朱松骨董品店』。
この語り口と、ゆったりしているのにどこまでも不思議な登場人物たち。
この店の老翁と、店に迷い込むあやかしたちとの会話も、また情緒があっていいです。
まず、この朱鷺さんの登場が銀狐の絵の中というのが、なんとも言えず面白かった。もう、目に浮かびますね。銀狐の不機嫌そうな顔!(笑)
この辺は本当に映像にして深夜枠で観たいところです。

朱鷺さんは、別の作品の人物だったのですね。
翁に渡された夢渓羅針銅で、無事に迷いから抜け出せることを祈っています。
そして、またこの、『朱松骨董品店』に迷い込む妖たちに会いたいです。
ちょっと気の強いじゃじゃ馬な銀狐にも。

楽しいお話でした^^

URL | lime #GCA3nAmE
2016/02/20 12:03 | edit

Re: タイトルなし

>いぬふりゃ☆さん
こんばんは!
いやー、僕も同じく、あの羅針盤が欲しい一人です。笑
でも確かに、人が持っても良いことは無いかもしれませんね~……あんな店に置いてあった品ですしね(´д`)

釣り一頁ですが、ちょうど他の釣りの話も書こうかなぁなんて思ってたところです。
僕がバス以外でやったことあるのが管釣りかフナ系のエサ釣りなので、なんとなく管釣りになるかと思います。
内容は全く決めていませんが、確かにそういうM美も良さそうですね♪
どうなるかは書き始めてみないと分かりませんが、たぶん追加キャラクターの個性次第になりそうな、ならなそうな……
今のところなんとも言えないです。笑

URL | 夢月亭清修 #-
2016/02/20 22:37 | edit

Re: 浸ってしまいました

>limeさん
こんばんは!
さっそく読んでいただけて光栄です。ありがとうございます♪

『蛍が沼』が夢関連の舞台でして、ちょうど本文も「次の世界は誰かの夢の中かも~」なんて感じで終わっていたのが偶然つながりました。笑
銀孤にとってはちょっとした災難だったかもしれませんねw

しかしこれで二回目ですが、limeさんの絵に猥雑さもあるような話ばかり書いてしまって申し訳ないです……
またいつか御題を頂くようなことがあれば、その時は100%ピュアな話にしようと思います。
絶対に!w

URL | 夢月亭清修 #-
2016/02/20 23:10 | edit

お話に続きが!
銀狐さんは女は嫌いなのですね(´・ω・`)
女もいいと思うよ! お話したら楽しいと思うよ! 私とお友達になろう!(おい

私もこの『朱松骨董品店』行ってみたいです♪
xxxHOLiCのお店を思い出しました(^^)
なんかこう不思議ーな人たち(?)に関わるようなお仕事したいです。
まぁ…幽霊も見れないので雇ってもらえない気がしますが(-_-;)

******
用語解説ありがとうございました(^^)
夢月亭さんのおかげで釣りに詳しくなりそうです(笑)

URL | たおる #-
2016/02/21 00:15 | edit

Re: タイトルなし

>たおるさん
こんばんは!
わー! たおるさん食べられちゃいますよ!笑
女の肉は嫌いらしいですが「食べない」とは言ってないですからねw

実は僕も書きながらxxxHolicを思い出していました。
あれ? 老翁の言ってることって、ユウコさんが店の宝物庫について言っていることと同じじゃないか?って…
完全に影響されていますねw

自分もこんな変なお店があったら働いてみたい気がします。
でも自分も霊感とかゼロで働けなさそうなので、頑張ってそういうお店をもっとたくさん書けるよう頑張ります(∩´∀`)∩

下手な解説で申し訳ないです。
また気になる点あれば遠慮なく聞いてください♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/02/21 01:50 | edit

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