夢月亭~下手の横好き~

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小説:釣り一頁ss No.5 「M美の秘密」  

小説釣り一頁ss No.5    『M美の秘密』    夢月亭清修


 私に彼氏ができた。
 名前はA太。
 私の勤め先はかなり田舎の方にあるのだけれど、綺麗な夕焼けに誘われて、何の気なしに休憩時間を外で過ごしたことが切欠だった。
 本当に何の気なしに――普段は休憩時間に散歩なんてしない。まぁこれは、仕事のストレスがそれだけ溜まっていたという話でもあるのだけれど、それはさておき――。
 近くの池を通りかかった時、彼はそこで釣りをしていて、見かけた時にはちょうど魚を掛けていた。嗚呼、思い出しただけでもあれは素敵な絵だったと思う。
 空も、雲も、水面も――全てが同じ夕焼けの色を纏って、彼はその中心にいた。勿論他と同じく夕焼けを纏う彼――彼の握る黒いロッドが描く弧は、そこでは人工物らしからぬ調和で自然と馴染んでいた。
 それは良い景色、良い風景と言うよりは『絵』と語るのが正しく思える。そう、素敵な絵、だったのだ。
 私は何だか嬉しくなって、彼に声を掛けた。
「あ、釣れたんですか?」
 あ、も何も見ていたのだからそれは分かり切った質問だったけれど、釣り人に声を掛けるならそれが一番自然であることを私は知っている。釣れたのは分かっていても、いきなり「どうやって釣りましたか?」なんて質問をする釣り人は滅多にいない。
 彼は堰堤の上に立っている私を振り返って、どうしてかポカンとした表情をしていた。なかなか言葉が返って来ないから、もう一度私から声を掛けなければならなかった。
「ど…どうかしましたか?」
 釣り人にこんな質問をしたのは初めてだった。今思い出すとなかなか笑えてくる。
「あ、えっと…その…あの…」
 彼はそんな風に少しだけどもり、私に言った。
「今日ここで誰かと出会ったら、それはきっと、恋に落ちるくらい素敵な女の子に違いないって思っていたんです。だってほら――」
 うわぁ…いきなり初対面の女に向かって何を言ってるんだろう……コイツ――というのが冷静な私から出るはずの感想なのだけれど、その時は違った。もぅ、本当に私もうっかりしたモノだ。
 うっかり、まいってしまったのだ――。
 顔が熱くなるのが分かった。きっと夕焼けの下でなかったら若年性の更年期障害と勘違いされていたことだろう。まぁきっと、その熱が今でも私の中で火の粉を飛ばし続けているに違いないのだ。
 嗚呼、そう言えば――彼がそこで「ほら」と示したのが魚ではなくて、そよ風に揺れてただただオレンジ色に光る水面だったことが、私を余計に惹き付けた。
 私には彼が「ほら」と言ったその気持ち、とても分かるのである。

 さて、その馬鹿みたいにロマンチストで、初対面の女に強い臭気を放つ言葉を平然と吐くくせに、ナイーブで小心者のA太は今、ティーテーブルを挟んで私の正面にいる。
 なんてことはないデートの最中だ。たわいない話をして、モンブランを頬張り、珈琲を啜る、そんなデートの。
 とても楽しいのだけれど、今私の心の中にはブラックバスのことが犇めいていたりする。そう、釣りに行きたくて仕方がないのだ。
 実は、釣り一家に育った私は大の釣り好きで、中でもバスフィッシングは一番と言っていい。
 私は、休日とあれば単身でバス釣りに出掛ける程の釣りキチなのである。
 しかし彼と出会って以来、私は釣りに行けていない。その理由を話せば「ノロケかよ、ぺっ」と誰かに唾を吐かれるに違いないのだが――彼が休日を合わせて毎週デートに誘ってくれるのだ。
 慣れないお洒落をしてホイホイ付いて行く私だから、まぁ釣りに行けないのも当然と言えば当然。デートを楽しんで不満を溜めるなんて、嗚呼、なんて贅沢をしているんだろう……。
 ここで「彼も釣り人でしょ? 一緒に行けばいいじゃない」なんて、いかにも某友人が言いそうな、ありきたりな解決策は却下だ。断じて却下する。
 恋人の趣味で嫌なものをランキングにすると、かなり上位の方に「釣り」はあるようだけれど、それは男女どちらから見ても当てはまる。特に私のように、そんじょそこらの男より釣りが上手い女となると目も当てられない。
 以前釣り好きの男と付き合ったことがあるが、一緒に釣行して私がボッコボコに釣るのに対し、彼が一匹も釣れないということがあった。それが切欠でフラれた記憶は、釣り好きとして色褪せるモノではない。
 ましてや今の彼、A太が初心者であることは出会った時に知っている。だからそう――
 今、私は私の釣り好きを彼に秘密にしている。彼に釣りのことで引かれるのはさすがに耐えがたいのだ。
 釣り好きとしても、女としても――。
 だからいっそ、釣りのことは当分忘れてしまおうとさえ思っていたのだけれど……。
「ん?」
 珈琲を啜る彼のスマホからラインの着信音が響いた。私達の会話も天使が横切るそのタイミングで――彼が、画面をタッチする。
「うわっ、すごい……」
「どうかしたの?」
 私の問い掛けに、彼はスマホを差し出した。
「今、友達から大きいバスを釣ったって連絡が来たんだ」
 画面を見ると、写真が添付されていた。池を背景に四十五センチくらいのバスを持つ手が映っている。バスの口にはしっかりヒットルアーも映っていた。
「へぇ、この池もクランクで釣れるようになったのね。もうすっかり秋って感じ」
「……え?」
「え?」
 私の秘密も、どうやらこれまでのようだった。

                                        ――了

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自分で書いておいてアレですが、A太君のセリフは現実ならかなり気持ち悪いですね。笑
でも、物語の中でなら許せてしまいます。

語り部は新キャラのM美でしたー。

Posted on 2016/01/04 Mon. 00:29 [edit]

category: 小説:釣り一頁(つり1ページ)ss

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 釣り  小説  ブラックバス 
tb: --   cm: 6

コメント

こん( ̄Д ̄)ノばんは。

……。
ざ~っと読ませて頂いて、最後の彼女の一言に吹いてしまいました(笑)
それを言っちゃあ隠してる事がバレバレだろって感じですね(。-∀-)
でも彼女の方が釣り上手だからって振るってのは心の狭い彼氏ですねぇ。僕だったら喜んで教えてもらうのに(笑)
釣りデートで思い出したんですが、知り合いの女の子が釣りに連れて行けと言うので近いうちに連れて行く約束したんですが…
まさかこれってデートになるんでしょうか(。・_・?)ハテ?
僕にはその女の子に彼女になってもらう気なんてさらさら無いのですが…。
何かめんどくさい事になりそうで不安になってきました( ̄◇ ̄;)。

URL | いぬふりゃ☆ #-
2016/01/04 01:07 | edit

Re: タイトルなし

>いぬふりゃ☆さん
こんばんは!
ほんと、いろいろうっかりにも程があるM美ですが、ばれたことですし今後は彼女にも釣ってもらおうと思っています。笑
元彼の心も狭そうですが、M美も実際竿を握ったら気持ち悪いくらい釣りオタクを発揮しそうな気が……w

どうなんでしょうね?
内容が釣りなだけになんとも言えない気がします。
取り敢えず行ってみて様子を見るのがよさそうな気がしますが……。
すいません、僕には判断しかねます(・´ω・`)ゞ

URL | 夢月亭清修 #-
2016/01/04 23:45 | edit

こちら読ませてもらいましたー!
おお! A太くん彼女が出来たのですね! 素敵な女の子が釣れたようです(^^)
しかも趣味が一緒っていいじゃないですか。
確かに彼女の方が上手いと男のプライドが傷つきそうですね(^_^;)
そして最後にバレちゃった(笑)

でもこの二人はなんだかんだで仲良くやっていけそうな気がします♪
A太くんに「そうじゃない!」って怖い顔して指導してるM美ちゃんの図も面白そうです(笑)

URL | たおる #-
2016/01/07 01:17 | edit

Re: タイトルなし

>たおるさん
こんばんは。読了ありがとうございます♪
そうなんですよ、A太君が彼女作っちゃいました。うらやまー。笑
男のプライドがずたぼろに成程釣りが上手い女の子なんだと思います。
だから怖い顔して怒ってるM美ちゃんもなんだか想像できますね~(^^)

元気の良さそうな女の子キャラなので今後はM美ちゃんに沢山登場してもらおうと思っています☆

URL | 夢月亭清修 #-
2016/01/07 21:11 | edit

ブログを拝見しました

こんにちは。
スペースお借り致します。

お友達がたくさん出来て、投稿に参加する度ごとに直筆のカード式のファンレターが3~30枚以上届く文芸サークル(投稿雑誌)をやっています。
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これからもブログの運営頑張って下さい。
失礼致しました。

URL | つねさん #-
2016/01/08 07:16 | edit

Re: ブログを拝見しました

>つねさん
ありがとうございます。
ブログを見ていただけたようで大変嬉しいです。
文芸サークルのサイト、後日確認させていただきます♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/01/08 23:59 | edit

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