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夢月亭~下手の横好き~

夢月亭清修の小説&バス釣りブログ♪小説の更新情報・小説・釣行記録・その他諸々掲載してます★

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小説:移動城塞都市と涙の運河 『39.No Title』  

     39.No Title――

     ※

 この物語の端緒に、僕はこう記している。

 今回の物語は『死んだ物語』か――いいや、明るい見方をするなら『復活の物語』かもしれない。少なくとも――決して『生きる物語』ではなかった――と。

 そうだ、この物語は死と復活の狭間の出来事を記録したものなのだろう。どこか他人事のような表現だが、書いた僕自身、大きな悲しみに直面した為か、そのように考えている。
 引き金は死の呼び水となり、死は復活の引き金となった。その後のことは知らない。その後で、生きる物語を紡いだ人々の事を、僕達チームは一切目撃していない。
 僕達は決定的なこの瞬間に、ただただ傍観者だった。

     ※

 まるでスローモーションのような、酷く時の流れの遅い空間を僕は体感していた。指揮官の銃から放たれた弾丸の回転さえ、この目は捉えていたように思う。それほどに――。

 放たれた弾丸は空気を切り裂きながら、ヌンの胸に向かって直進してゆく。

 一ミリの迷いも無いその軌道は、これが最早取り返しのつかない事象なのだと、僕にハッキリと予感させた。

 弾丸の進む先に立つヌンは、それを受け入れようとしている。

 避けたり、身を守ったりする気が無い。こうあるべきと、彼自身がそれを望んでいるのだから。

 嗚呼、これで、終わる。この世界の一つの時代が、終わる。

 この広場にいる人間で、僕と秀喜にしか分からなかっただろう――ヌンは、薄っすらと微笑んでいた。

 始めの予定とは違う結末に、それでも満足するように、微笑んでいた。

 僕は思う――これが果たして、本当にAIなのか、と。

 世界を一変させ、規則と宗教を作り、人を導いた。そして今、個人を愛することを知ってしまい、個人の為に自ら死を選ぼうとしている彼は、本当に人工知能という言葉に収まるのだろうか。

 神を騙ったAIが、今、僕の目にはあまりに神々しく映る。

 そしていよいよ、弾丸とヌンの距離は縮まってきていた。僕の視界にはもう、ヌンと弾丸しか映っていない。

 僕はこの決定的な瞬間から、絶対に目を逸らしてはならないと感じていた。そうして彼を、この世界の指導者ヌンを、己の胸へと刻み付けよう――それがこの世界を記すだろう僕にとって必要な事であり、同時に、彼への弔いでも、敬意の表れでもあった。そういう、気持ちだったのだ。

 だから僕は、瞬きを禁じてその瞬間を見詰めていた。

 スローモーションのような体感だ。音は、一発の銃声に全てが塗潰されて遠く、無音のようでさえある。

 本当は、彼女の駆ける音も、彼女の叫ぶ声も、そこにはあったに違いないと思うのだけれど――。

 そう、そうなのだ――ヌンと弾丸のみに集約されたような僕の視界に、突如として彼女、ミクラさんは現れた。

 どうして? そう思ったが刹那、彼女はヌンを突き飛ばし、彼の替わりに――

 その身に弾丸を、受けた。

 ミクラさんの体が、一瞬、宙に浮いて、ゆっくりと――


 ゆっくりと、倒れてゆく――。


 体から力が抜けて、僕はその現場を真っ直ぐに見詰めながら膝を突いていた。
「どうして――」
 言葉を口にした瞬間、時間の体感と視界とが、一辺に正常へと切り替わった気がする。が――広場は依然として、静寂に包まれたままだった。
 僕だけじゃない。秀喜も、そして大隊として居合わせた人々も、事の衝撃に心臓を掴まれたよう。
 大隊の間では、個々に芽吹いた罪悪感が、ある種の気まずさのような空気を醸し出し始めている。
 こんなはずでは――仲間を殺すつもりなんて、これっぽっちだって無かったのに――そんな声が、どこからか聞こえてくるような――。

 そして突き飛ばされたヌンは、広がり続ける血溜まりの中で倒れているミクラさんを、たった今、目撃していた。
「ミ、ミクラ――ッ!」
 神の威厳など何処にあろう――大切な娘が直面している死への予感に恐怖し、膝が笑っている。上手く立てないのか、ヌンは地べたを這いずるように血溜まりの中へ入って行った。
 そうして彼女を胸に抱き、必死に声を掛ける。
「ミクラッ! ミクラッ! ッ――しっかりしろ! ミクラッ!」
 血の気の引いた顔、ぼんやりとしたミクラさんの目が、それでもヌンの顔を認識したらしい。
 その瞬間の彼女は、あまりにも美しかった。天使のような微笑みを浮かべ、ヌンの顔にゆっくりと手を伸ばした。
「まぁ……泣いているの? お父様――」
 ヌンの頬に伝う涙――ホログラムのはずだ。でも、僕にはその涙が、ミクラさんの指で拭われたように見えた。
「ミクラッ――だ、大丈夫だ。今、私が、私がお前を救ってやる! 大丈夫、大丈夫、だから――」
 狼狽えるヌンに、ミクラさんが小さく首を横に振った。
「お父様――ごめん、なさい……私、巫女失格、だわ……。お父様の教えに、きっと背いているの――だって、私、お父様、が、神でも、悪魔でも、どっちでもいい――そう、思ってる……。だから、だからね、お父様――」

 ヌンが泣いている。娘の言葉に耳を傾けて、心を激しく揺さぶられている。

「――貴方を心から、愛しています……。次はもっと、い、いっしょ、に――そば、に……――」

 そこでミクラさんの顔から笑みも、その眼から光も、消えてしまった。ヌンの腕の中に残ったのは、彼女の抜け殻だった。まだ温かいのだろうけれど、確かに、抜け殻だった。

                      ≪――続く≫
前話→38.計画の進行――発砲    次話→40.染まる


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Posted on 2018/06/13 Wed. 12:46 [edit]

category: 小説:移動城塞都市と涙の運河

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tb: --   cm: 2

コメント

夢月亭清修さん、お久しぶりです。
ミクラさんの生い立ちのところからここまで一気に来ました。

ヌンの歴史の壮大さに驚きです。
ミクラさんにとってのヌン、ヌンにとってのミクラさん、どちらもどちらをとても大切にしていて、近いようで近くない、けれども近い、みたいな距離に切なさを感じます。

ヌンが人の形となって現れ、ミクラさんと対面する時はどんな会話が交わされるのだろうと思いきや。この展開(@@) 
ちょっと。清修さん。これ、ドッキリですよね…?
来週までおあづけ…?

URL | けい #-
2018/06/14 20:59 | edit

Re: タイトルなし

>けいさん
お久しぶりです!コメント、そして一気読み感謝です^^
ヌンの歴史、楽しんでいただけたようで嬉しいです♪
ヌンとミクラの距離感、関係性を描くには、もっとエピソードを盛り込んだ方が良かっただろうか……?とか、じゃあそれ、どうやって二人に話させたらいいんだろう……?とか、色々迷ったり、書いてUPした後で反省したりしてました。笑
読み手任せになり過ぎじゃないだろうか……と。
で、その辺読むとやはり二人のご対面は想像するところですよね!
え、ドッキリ?? ………なんのことでしょう??笑

URL | 夢月亭清修 #-
2018/06/17 13:53 | edit

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