夢月亭~下手の横好き~

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小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.9  

   小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.9



 一応、はじめまして、になるのかな?
 はじめまして、青木祐介です。出しゃばりだとは思うのだけれど、僕にも少し語らせてもらいたい。
 紅葉ちゃんが誠兄さんの胸で泣いている時、実は僕と翠もそこにいたんだ。いや、いたとは言っても二人のすぐそばに立っていたわけじゃない。恥ずかしながら、そんな二人の様子を僕達は覗いていた。そう、お店の中からね。
 元々僕たちは家の二階で寛いでいたのだけれど、突然、外から大きな泣き声が聞こえてきた――一体誰の泣き声だろうと気になって窓を開けたのは翠だ。
「祐ちゃん大変! 紅葉が泣いてるわ!」
 翠がそう言うから僕も驚いたね。え! あの紅葉ちゃんがっ!? って。
 そう、僕達はその泣き声の主が紅葉ちゃんだなんて想像もしていなかった。きっと近所の子供が転んだんだろう――消毒薬あったかな? くらいに思っていたよ。なにせ僕達は、泣いている彼女を見たことが無かったからね。
 それで二人そろってバタバタと階段を駆け下りて、ちょうど翠が店の戸に手を掛けたその時だった。
 気が、変わったんだ――
 僕の気が変わった。本当は直ぐにでも飛び出して、三人で紅葉ちゃんを慰めてやろうなんて思っていたのだけれど、そこで僕は翠の手を掴んで引いた。
「いたっ! ちょ、祐ちゃん何すんのよ! 早く紅葉の所へ行かなくちゃ!」
 ここで引き留めたら殴られるかもな――と正直思ったよ。案の定、僕を振り返った時の翠の睨み顔は滅茶苦茶怖かったしね(極道映画さながらのメンチだ)。邪魔立てするなら祐ちゃんだろうと――! って感じかな。でもね――
 紅葉ちゃんが大好きで、大好きな人の涙を見過ごすような翠でないのは良く解ってはいたけれど、ここはどうしても、僕に付き合ってもらいたかった。
 その想いが通じたわけではないんだろう。でも、彼女は僕を殴ってくることも、僕を睨み続けることもなかった。ただ、訝しそうな顔で一言――
「……なんで、笑ってるのよ」
 僕を問い質した。
 そう、僕は笑っていた。勿論それは満面の笑みなんかじゃなくて、困り笑いに近いような笑い方なのだけれど、翠からは酷く能天気なツラに見えたことだろう。紅葉が泣いているのに、とか、紅葉が心配じゃないの? と、質問の裏にはそんな言葉が聞こえてくるようだったからね。
 勿論僕にだって紅葉ちゃんを心配する気持ちはあった。僕だって、翠に負けないくらい紅葉ちゃんが好きだから。でも――
 今は、兄さんただ一人に泣いていて欲しいと思ったんだ。相手が兄さん一人なら、紅葉ちゃんも心のままに泣けるだろうと、そう思った。
 さっきも言ったけれど、僕達は紅葉ちゃんが泣いているところを見たことが無かった。それはきっと、彼女が僕達に泣いているところを見られまいと努力してきた結果なんだろう。
 泣きたくなるようなことは、きっと沢山あった。
 実際に泣くことだって、きっと沢山あったに違いない。
 でも、見せなかった。
 あの子はね、いつもそう――誰かに心配をかけまいとする。誰かに心配されるとすごく申し訳なさそうにする。昔からそう、そういう子だった。
 でも誠兄さんは、そんなあの子が唯一人泣き顔を見せることのできる特別な相手だ。その兄さんが今、彼女を抱き締めているならそれでいい。それでいいじゃないか――。
 僕達が出しゃばれば、彼女はまた我慢してしまうかもしれないと思ったんだ。あんなに泣く程の悲しみに襲われていて、それを我慢させること程酷いこともないだろう?
 だからね、僕達の出る幕じゃない。
 しかしそうはっきり言うと、兄への嫉妬心とか何もできないことへの悔しさをパワーに変えて、今度こそ翠は僕に襲い掛かってくるかもしれないから、僕は代わりにこう答えた。
「……青春の失策は、壮年の勝利や老年の成功よりも好ましい――」
 これはベンジャミン・ディスレイリィの言葉だ。そう、以前に僕から紅葉ちゃんへ、送った言葉の一つ。
「兄さんに任せておけよ。ただ泣くことが必要なことだってあるさ。僕達はただ、見守ればいい」
 はっきりと、ばっさりとは言わなかったけれど、まぁ実は、ディスレイリィの言う『好ましい――』これこそ僕の本心だった。そう、僕が笑っていた、本当の理由は――。
 泣いている紅葉ちゃんが、嬉しくもあった。ざまぁみろ! なんて思っているわけじゃない。当然だろ?
 泣かないあの子が、涙を見せないあの子が、それでもああして泣いているのだから、そこにはきっと、あの子にとって大切な何かがあったんだろうと思う。その大切な何かと向き合っているから、きっと泣けるのさ。
 ならば泣いてはいても、前に進んでいる。
 もっと大切な何かを、知ろうとしている。
 青春って、きっとそういうモノだろう?
 だからね、その涙は青春の汗――いいや、こんな表現ではどうにも男らしくって愛らしいあの子には似合わないな。そう、涙は彼女を飾る宝石のよう。彼女をを輝かせる、光の粒だ。
 そう想えば、嬉しくないわけがない。
 だから僕達は見守ろう。彼女を甘やかしたがりな心配性の心を押さえて、困ったような笑顔で、輝く彼女を見守ろう。
 きっと今は、それが正しい――。
「でも……」
 そう呟いた翠は何だか泣きそうな顔になって、戸の隙間から二人を見ていた。彼女の背中は震えていて、やはり紅葉ちゃんがどうしても心配らしい。だから僕は、そんな背中をそっと抱き締めて、彼女を習うように戸の隙間から二人を見守った。
 紅葉ちゃんの泣き声は夜空に響いている。わぁわぁと、まるで生まれたての少女のように。
 そんな彼女に、僕はもう一言、送りたくなった。
「泣くほどの青春が、君を大きくする」
「……それは、誰の言葉?」
 紅葉ちゃんの涙に当てられて、静かに泣き始めた翠が僕に尋ねた。僕は恥ずかしげもなく言う。
「僕の言葉さ」
 そんな僕を「………くさっ」と彼女は一蹴した。

                                          ≪――続く≫
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今回だけ紅葉の視点を離れて祐介の語りとなりました。

次話、『紅葉の失恋』最終話です。どうぞよろしく!

Posted on 2016/08/09 Tue. 23:53 [edit]

category: 小説:紅葉怪奇譚Ⅱ

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説 
tb: --   cm: 8

コメント

今回は祐介さんの語りですか!
視点が変わることによって紅葉ちゃんの涙の意味が
逆に切々と伝わってきました。

悲しみを共有できる相手と共有できない相手っていますよね。
うまくいえないんですけど、紅葉ちゃんにとって
マスターはそういう相手で、祐介さんはまた違うのかな、って
思ってしまいました。

ベンジャミン・ディスレイリィの言葉の引用もなんとも
奥深く、祐介さんが言っているように連載が始まって以来、
紅葉ちゃんがここまで号泣することってなかったですよね。

>まるで生まれたての少女のように。

この言葉にはっとしました。
赤ちゃんのように、じゃなくて、紅葉ちゃんは少女のままで生まれ変わった
たのですね。紅葉ちゃんが今後辿るであろう、心の成長の始まりに
これほどふさわしい言葉もないように思いました。
次回いよいよ最終話なのですね。お待ち申し上げております!

URL | canaria #-
2016/08/10 13:05 | edit

マコにぃ~
祐介さあーん

紅葉ちゃんはたくさんの人と人以外の人(?)からも支えられて、こうして大きく泣くことができるんですね。
もう、涙はじゃかじゃか流しちゃってください。
泣きつくした後にはきっと今までとは違うものや事が見えてくるはず。
そうして、経験しながら、大きくなるのですよ。ね。
周りの力も大きいなあと思った今回でした。

URL | けい #-
2016/08/11 11:43 | edit

Re: タイトルなし

>canariaさん
大事なシーンなので二回書きました。笑

≫悲しみを共有できる相手と共有できない相手っていますよね。

ですよね~。
けっして共有できないことがマイナスではないと思うんですよ。
好きな友人に対して「心配はかけたくない」という気持ちも働いてのことだと思いますから。
でも、共有できる=甘えられる、ですよね。
これは絆としてかなり大きいプラスかなぁ^^なんて考えています♪
設定を考慮すれば、祐介&翠の前で泣くことがなかったのって、涙の原因の多くが怪異絡みだったからなのかもしれませんね。

ディスレイリィの言葉、プロローグでも出てきたモノをここで回収です。
言った本人に回収させましたw(無理やり?w)

次回で最後です^^
生まれたての少女、しばらくはウジウジするみたいですがwともあれ後日譚的な内容です。
是非是非、チェックしていただけると嬉しいです♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/08/11 21:40 | edit

Re: タイトルなし

>けいさん
マコにぃ~
祐介さあーん
(↑よかったら翠さあーん、も入れてあげてくださいwwすっごい睨まれますよw)

紅葉、友達は少ないですが色々な存在から守られていますよね~。
その分色々なモノに襲われたりもしますが……w

こういうじゃかじゃか泣けるような大きな感情の波って、=青春だなぁなんて思います^^
次回は泣きつくして、もうちょっと泣けそうな紅葉がまた語り出します。
最終話もよろしくお願いしますm(^^)m

URL | 夢月亭清修 #-
2016/08/11 21:53 | edit

おお~

祐介さんの視点ですね。
何とも優しいお方。
じぶんも飛んでいきたいのに、紅葉ちゃんのためにぐっとこらえるなんて。
これも包容力ですよね~。

でも、そんな優しさはきっとにじみ出てて、紅葉ちゃんにもちゃんと伝わってるはず。
ああ、紅葉ちゃん、やさしいお兄様たちに見守られて、羨ましいなあ(;_;)(そっちか!)

URL | lime #GCA3nAmE
2016/08/12 07:08 | edit

Re: おお~

>limeさん
はい、祐介視点でした~^^
彼、自分を抑え込むより嫁を抑え込むことに必死だったかもしれませんね。笑
これも包容力!(…ということにしておこうw)

いやぁ、僕としてはその優しいお兄様達に混じって若者を構いたい……
あの三人が羨ましいです。笑

URL | 夢月亭清修 #-
2016/08/13 00:06 | edit

8.9と読みました。
おおう。・゜・(ノД`)・゜・。紅葉ちゃん…気持ち分かるよ(T_T)辛かったよね…怖かったよね…ぎゅってしてなでなでしてあげたいです(>_<)
ちゃんと紅葉ちゃんを大事に思ってくれてる人はいっぱいいるから!私も大事に思ってるから!好きなだけ甘えていいんだよ!

そして宗次郎さんかっこええぞ!寡黙なのにいざって時身を挺してくれるとか!ヒーローか!惚れてまうやろ!

生霊は宮内さんの周りの女子が原因でしたか。てっきり宮内さんだとおもってたごめんね宮内さん(;´Д`A

8.9と夢月亭さんの優しさが伝わってくるお話でした(o^^o)
もう少しで終わりになるのかな…寂しい(´・_・`)
また最後まで読みにきます!

URL | たおる #-
2016/09/04 21:58 | edit

Re: タイトルなし

>たおるさん
こんばんは!
8,9の読了感謝です^^
もうもうっ、たっくさんギュッとしてやってください!笑(想像の中で!w)

≫私も大事に思ってるから!
↑自分の書いたキャラクターをそんな風に言っていただけるのは超嬉しいです><ありがとうございます!

宗次朗さんは間違いなくヒーローですね(∩´∀`)∩
具体的に何かをしたわけではないように見えますが、実はこの瞬間宗次朗さんもなかなかいい仕事をしている設定です。
そのことをどっかで書きたいんですが……ぬぬ、取り敢えず完結させたい作品がアレやコレや……

宮内さんも実は良い奴設定なので、これもどこかで登場させたいなぁ……
書きたいことがあり過ぎて日常の仕事が嫌になってくる瞬間があります。笑(タスケテーw)

あと一話ですね!
ちょっと長めの一話ですがどうぞよろしくお願いします♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/09/05 23:17 | edit

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