夢月亭~下手の横好き~

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小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.6  

   小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.6



 土曜日がやってきました。
 生霊のことをあれこれ考えては気を重くしていた私ですが、この日だけは気分も一転、陽気をふんだんに含んだお昼過ぎ――本日の青空の如く、跳ねるような心持で家を飛び出しました。
 服装は以前に翠さんと二人で買いに行った春らしいドッキングワンピースに七分袖の白いカーディガン。勝負服! と言うわけではありませんが、アパレルショップ店長の翠さんに手伝ってもらって選んだ服なのでちょっぴり自信もあり、私としては準備万端のつもりです。
 お気に入りのそれに袖を通す際、私はわざとあかりちゃんの憑代をポケットに入れ忘れています。そう、つまり坂之上君と完全に二人きりです。家に帰ったら彼女に何を言われるか分かったモノじゃありませんが、いえいえなんのその。今日だけはお留守番でお願いします。
 私と坂之上君は駅で待ち合わせ、病院前行のバスに乗り込みました。
 病院という行き慣れない場所に向かっているということと、隣に彼がいることで酷く緊張した私は相変わらずのコミュニケーション能力を発揮しながらバスに揺られていましたが、彼は私が引込み思案なことを踏まえた上で気さくに話し掛けてきてくれます。
 それがとっても嬉しくて、心地いい。
「悪いな柿川、休日に付き合ってもらって」
「う、ううん。平気。予定、無かったから…」
「いや、実は病院なんて行き慣れないし、誰かに付き合ってもらえるのは有難いんだ」
「わ、私じゃその、役に立たないと思うけど…」
「ははっ、そんなことないよ」
「そ、そう?」
「ああ。伊藤もきっと、俺一人じゃ華が無くて退屈しちまうかもしれないしな」
「は、華だなんて、そんな………」
 坂之上君のちょっとしたお世辞にも、私の顔は火照りを覚えてしまいます。確認はできませんが、きっと幾度となく隠しきれない程頬を朱に染めていたに違いありません。
 そんな嬉し恥ずかしに悶えながら、バスはやがて、病院前へと辿り着きました。

「え!? 昏睡!?」
 私と坂之上君は、伊藤君のいる病室の前で彼のお母さんに行き会いました。
 彼女は見るからにボロボロというか、いえ、勿論身なりはキチンとしたものだったのですが、ここ数日寝付けない夜を過ごしたのでしょう。目の下には大きな隈を携えて、今にも頽れてしまいそうな雰囲気――それはきっと、愛する息子を心配してのことだと想像に難くありません。
 そんなお母さんが、私達に伊藤君の置かれている状況を見舞いの礼と共に語ってくれました。
 伊藤君は二日前の朝、学校に行こうとして玄関で倒れたそうです。それ以来原因不明の昏睡が続いており、今は様々な検査を受け続けているのだとか。それを聞いた坂之上君はショックのあまりここが病院だということも忘れて叫びました。「え!? 昏睡!?」――と。
「ええ、だからね、あなたたちのお見舞いはとっても嬉しいのだけれど、今は寝顔しか見せてあげられないのよ。本当にごめんなさいね……」
「……い、いえ。こちらこそ急に伺ってすみません。病室、入っていいですか?」
「ええ、どうぞ」
 伊藤君の容体が予想していたよりずっと深刻だったのでしょう。坂之上君のショックは顔色と声にありありと見て取れ、先程まで元気な彼を見ていた私はそのことに胸が苦しくなる思いでした。
 そうして入室した私たちが見た伊藤君の姿は、痩せこけ、様々な管で機械や液体と繋がっており、それは外傷なんか無くても酷く痛々しいもので――
 でも――
 そんな彼よりも私の目を奪う存在がそこには居たのです。
 彼女はベッドに横たわる伊藤君の直ぐ枕元に立っていました。
 そう、宮内和美さんが、そこに――
 いいえ、その黒く煤けたようでいて背後を透かせている宮内さんは本人ではなく、生霊。じっと伊藤君の顔を無表情に見降し、手を叩いています。
 そう、件の逆手拍手をしているのです。しかしそれは以前見たような緩慢な拍手ではありません。体は寸分違わずに静止しているのに、その逆手拍手は不気味な程の速さで乱打されていました。
 パチ、パチ、パチ――ではなく、パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ――と、まるでラストスパートをかけているかのよう。私はそんな生霊の姿にゾッとし、噴き出す冷や汗や、足の震えが止まらなくなってしまいました。
 だって、彼女は以前見た時よりずっと強い邪気を放って、伊藤君を見下ろしたまま瞬きもしないその姿は、嗚呼、完全に殺しに掛かっている――と私に悟らせたのです。私は殺人現場にでも居合わせたかに恐ろしくなって、叫びたくとも叶わないような身の硬直と震えとを同時に味わっていました。私しか聞こえない逆手拍手の音から逃げたくても、耳を塞ぐことさえ儘なりません。
 しかしそんな窮地から私を救ってくれたのは、直ぐ隣で伊藤くんを心配そうに眺めていた坂之上君でした。彼は私の異変に気が付くと、直ぐに背中を押して病室の外へと導いてくれたのです。きっと、痛々しい伊藤君の姿にショックを受けたのだろうと慮ってくれたに違いありません。それは彼だって同じはずなのに――。
 病室を出ると生霊の邪気はスッと私の感覚から消え去り、私の心臓は依然として早鐘を打ち続けてはいましたが、それでも段違いに楽になりました。
 そうして幾許かの落ち着きを取り戻した私は、どうにかこうにか伊藤君のお母さんに頭を下げ、坂之上君と共に病院を後にしようと廊下を歩きはじめました。ですが――
 もう一度、私は恐怖しました。背中に一瞬だけ、あの強い邪気を感じ取ったのです。咄嗟に振り返れば、そこには私達を見送るお母さんと、閉めたはずなのに少しだけ開いている病室のドアが――そのドアの隙間から、本当に一瞬だけ、あの宮内さんの生霊が私を覗き見ていた気がしました。
 気のせいでしょうか? 嗚呼、気のせいならどんなに良かったことでしょう………私は自分のセンサーにかなりの信頼を置くようになり始めていましたから、どうしても楽観的には考えられません。
 覗かれていた――それは今の私にはただただ恐ろしく、そこにどんな意味があるのかまでは想像も及びません。
 肩に手を回して私を支えてくれている坂之上君は、そんな私を心配そうに見ています。ただでさえ伊藤君の姿に彼もショックを受けていましたから、私は私の心配までさせてしまっていることがただただ申し訳なくて、この触れ合いを役得と喜ぶこともできませんでした。

                                          ≪――続く≫
前話→『紅葉の失恋』No.5   次話→『紅葉の失恋』No.7


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Posted on 2016/07/27 Wed. 03:10 [edit]

category: 小説:紅葉怪奇譚Ⅱ

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説 
tb: --   cm: 4

コメント

おお、楽しいはずのデート(?)が
急転直下……

まさかここまで悪化してるとは予想だにしませんでした。
実体の宮内さんも同じように伊藤君を恨んでいるのかなあ?
あかりちゃんも連れてきてないし、なんだか心配です。
何事もなければいいけど……

あ、前のコメントの話で申し訳ないのですが、
告白の件はお断りしたというオチでした///

URL | canaria #-
2016/07/27 12:44 | edit

うわあ、なんか今回は怖かったー。
なぜそこに、というか、やはりそこに、という感じでしょうか。
ラストスパートー(><)

いやこれは心配ですね。
坂之上君どころではないかも?
そして、急を要するかも? 何の急か?

この大事に、紅葉ちゃん(とあかりちゃんと・・・?)はどう対処するのでしょうか。
それと、恋物語がどう絡まってくるのでしょうか。
これはコワ楽しみです^^

URL | けい #-
2016/07/27 14:01 | edit

Re: タイトルなし

>canariaさん
こんばんは!
いやぁ、悪化しすぎですよねぇ。笑
実際の宮内さんが語らないので色々不透明ですが、ここからお話もグッと進むので、次回もチェックしていただけたらと思います♪
何事も無く終わる……とは思えませんね!w

おお、生霊君お断りでしたか。笑
飛ばしちゃうだけにその後の落ち込み方も酷かったかもしれませんね……
何となくイメージで同情しちゃいます^^;

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/27 23:11 | edit

Re: タイトルなし

>けいさん
こんばんは!
やはりそこに、って感じですね^^
時間と言う解決法を思い切り否定するラストスパート!
紅葉(とあかり)には踏ん張り所です。(色々な意味で…w)
後半もバッチリ恋のお話に仕上がってますので、コワ楽しみにしていただけたら幸いです。
更新頻度上げていきますよー!

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/27 23:17 | edit

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