夢月亭~下手の横好き~

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小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.4  

   小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.4



 翌日、私とあかりちゃんが登校すると、ホームルームの開始時間になっても埋まらない席が一つありました。それは私の席から遠い一番左の一番前――そう、伊藤四郎丸君の席です。とうとう、彼は学校をお休みしてしまったのです。
 私はホームルームも、授業中も、その原因であろう宮内和美さんの様子が気になって、終始彼女を窺っていました。なにせ伊藤君の欠席の原因は彼女の生霊がもたらした霊障、件の逆手拍手が功を奏した結果に他なりません。ですから、伊藤君の欠席は彼女にしてみれば狙い通りの、いいえ、彼女自身、こんなにも思い通りの展開がやってくるとは思ってもみなかったでしょう。自分が生霊を飛ばしていることは、彼女自身には分からないことでしょうから。
 ともあれ逆手拍手の意味は昨晩聞いた通り『死ね』――というなんとも不穏当なものですから、ひょっとしたら伊藤君、本当に死んじゃうんじゃ……と、いよいよ私も本気で心配になってきていたのです。もしも本当にそのような結末が訪れてしまったなら、原因の視える私はきっと、もう安穏とこのクラスにいることなどできないように思われたのです。
 嗚呼、私はやっぱり、坂之上君が言うような良い奴ではありません。伊藤君を心配しているようでいて、その裏では自分の心配をしているのです……。
そんな感慨を抱きながらも、やはりこのまま見過ごすのもどうかと思い始めていました。やはり、怪異に関して正確に物事を読み取ることができるのは、このクラスでは私しかいないのです。クラスには坂之上君のようにクラス全体のことを案じているような、そんな素敵な人もいます。ですから、私に何かできることは無いだろうかと、心の片隅で思案しながら宮内さんを観察していました。彼女に、何か変化は起きていないだろうか、と。

 お昼休みになって、私は青天の中庭でお弁当を食べながら、そんな今の気持ちをあかりちゃんに話していました。
「宮内さんに変わった様子は見られないね。いつも通りって言うか普通っていうか……ねぇあかりちゃん、私、何かできることあるかなぁ?」
『う~ん、どうだろうねぇ。紅葉ってお祓いとかできたりしない? こうやって紙切れの付いた棒を振ってさ、ナンマンダブナンマンダブ――みたいな』
 あかりちゃんは自分の中にある祈祷師のイメージで、それの真似をしてみせます。それは私の中にある祈祷師のイメージとそう遠くありませんでしたが、生憎そんなことはやったこともありません。確かに、伊藤君に憑いている生霊を祓えれば話は早いのかもしれませんが…。
「無理だよ~……やったことないもの…」
『そっかぁ。そうだよね。紅葉がそれできたら今頃私も強制退場だったかもね』
「できてもあかりちゃんにはそんなことしないよ」
『……ほんと?』
「……たぶん…」
『たぶんじゃダメ! そこは「しない」って言い切ってよ~!』
 ちょっぴり照れ隠しも含まれていたのか、ぷかぷか浮かんでいたあかりちゃんは私に飛び掛かって、押したり抱き着いたりのじゃれようです。私はお弁当が零れないように必死でした。
 最近はこんなとき、私が考え過ぎてナーバスになっているときに、マイペースで、少し呑気なあかりちゃんの性格には救われている気がします。ほっとできると言うか、ほっと一息吐けるというか。
 ありがとね、あかりちゃん。お弁当零したら怒るけどね。
「とりあえず、またマスターに相談かなぁ」
『うん、それがいいよ。中途半端に手を出したら危ないかもしれないよ?』
「だよねぇ」
『……でもさぁ…』
 ここであかりちゃんは一転、いつもの呑気さが抜け落ちたかの、とっても寂しそうな表情で言いました。
『本当にあの二人、仲悪くなっちゃったのかなぁ……』
 ここにも、坂之上君のようにクラスを案じている子がいました。あかりちゃんがコミュニケーションを取れるのは私が唯一人なのですが、立ちんぼしていた頃から依然として変わらないクラスへの愛情を、彼女は持っています。そして――
『仲直り…できないのかなぁ……』
 あかりちゃんがそう呟いたとき、私は閃いたのです。
「仲直り……それだよあかりちゃん!」
『え?』
「宮内さんが伊藤君を恨まなければいいんだよ!」
『………あ! そっか! そうだよね!』
 私とあかりちゃんはにんまり笑顔で顔を見合わせました。そう、生霊は恨みの塊のような存在ですから、その恨みが無くなれば生霊も消え、伊藤君も回復するに違いない、これは名案に違いないと、そう思ったのです。仲直り――それがどれ程難しいことかなんて、この時の私達はまるで考えていません。ただただ、できることがあるかも知れないと思って喜びました。
『じゃあさじゃあさ! 喧嘩の原因が分かれば仲直りをお手伝いできるかな?』
「うん! できるかも知れないね! でも、どうやって調べればいいんだろう?」
『ふふふ、それは任せてよ』
「? あかりちゃん、そんなことできるの?」
 あかりちゃんは自信たっぷりに頷いて見せました。一体どんな方法で調べようと言うのでしょう? 
 私はその方法について尋ねようとしました。が、私とあかりちゃんの会話はここで一時中断になります。渡り廊下の間から「お~い」という声と共に、男の子が駆け寄って来たのです。
 坂之上康君でした。私は途端に緊張し、座っていたベンチから慌てて立ち上がるなり直立不動の構えです。
「さ、ささ坂之上君、慌てててど、どうしたの?」
 彼は私の前で立ち止まると、膝に手を突いて息を切らせました。
「はぁっ、はぁっ、た、大変だ柿川」
「お、おお、落ち着いて坂之上君――」
 彼は何だか深刻な様子で、私としては必死にそう言ったつもりなのですが、ポケットの中からは『紅葉こそ落ち着きなよ』と声が聞こえます。あかりちゃん、なんでかまた隠れてしまったみたいです。そこに浮かんでいたって見えないのに…。
「柿川、明後日の土曜日空いてるか?」
「!?」
 ま! まさかデートのお誘いでしょうか! 私、男の子に誘われるのなんて初めてで! もう驚きのあまり緊張のあまり声も出ませんどうしよう行きたい夕方からならお店休んででも行きたいのですが続く彼の言葉は浮れた私が馬鹿みたいに思えるような――とっても真剣なものでした。
「伊藤が入院したらしい。柳田先生が教えてくれたんだ。なぁ、心配だから見舞いに行こう」
「う……うん」
 どうにかこうにか頷いた私の顔は、あらぬ期待をしてしまった恥ずかしさで真っ赤に染まっていたに違いありません。恥ずかしくて、恥ずかしくて、居ても立ってもいられないような心地でした。その恥ずかしさを助長させたのは言うまでもなく、自覚してしまったこと、です。私はまだ言葉少なに話しただけの彼に、そういったことを期待してしまっていたのです。それに気付いた瞬間、私の心は大きく揺れ動きました。不謹慎にも伊藤君が大変なこの時に、デートではなくとも休日を一緒に過ごせるのだと、私は大きな喜びを覚えていたのです。
 本当に、私の馬鹿――。

                                        ≪――続く≫
前話→『紅葉の失恋』 No.3   次話→『紅葉の失恋』No.5


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Posted on 2016/07/16 Sat. 01:05 [edit]

category: 小説:紅葉怪奇譚Ⅱ

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説 
tb: --   cm: 6

コメント

うんうん、坂之上君のいい影響を受けて、
クラス全体のことを見回せるようになったんですね。
前までの紅葉ちゃんだったらそれこそ見て見ぬふりを
決め込んでいたのかも。
こうやって積極的に人と関わろうとする姿勢は
これまでは見られなかったもので、あかりちゃんや
マスターや、その他いろんな人との関わりで培われて
いったものだなんだろうな。

さてさて伊藤君ですが、とうとう学校お休みもとい入院しちゃったんですか……
順調に? 虎視眈々と宮内さんの狙い通りに事が進んでいるのかしら。
怪しい雲行きになって参りました。
この二人に何があったのかも注目が集まるところですね。
伊藤君何やらかしたん……

伊藤君のことも心配なんだけれど、咄嗟に期待が優先してしまう気持ち、
ああ、分かるなあって思いましたよ。
これぞまさしく恋する女の子の思考回路……
一喜一憂が激しくなって、失敗するたびに自己嫌悪に陥る気持ち。
クラスが大変なときだからこそ一層そんな自分に自己嫌悪を覚えたのでしょうね。
でも一緒にいられるのが嬉しいだなんて、なんともいじらしい><
恋の行方、生霊の行方、今回は二重に気になります!
あと、今回は更新がいつもより早くて嬉しいでした〜ヽ(*^^*)ノ
次号も期待!

URL | canaria #-
2016/07/16 14:00 | edit

いや、わかりますよ~。
伊藤君の入院はショッキングで心配だけど、坂之上君と一緒に過ごせるだなんて。
そりゃあドキドキしますよ。

でもやっぱり坂之上君はクラス皆に優しい子みたいですね^^
う~ん、嬉しい事ではあるけど複雑。

URL | lime #GCA3nAmE
2016/07/17 02:32 | edit

ぷぷ。紅葉ちゃんの乙女っぷりが超かわいいです。
あかりちゃんのポケットに隠れちゃうという気の使いようも。

色々と策は練られているようなのですけれども、ここに来て一歩展開が。
そして、理由はともあれ、坂之上君と・・・

けれども、伊藤君の事が心配ですね。
入院とは大変なことですから。
さて、どうなる・・・

URL | けい #-
2016/07/17 16:43 | edit

Re: タイトルなし

>canariaさん
そうそう、ちょっとずつですが、紅葉は成長していますよ~^^
以前の紅葉なら怖がるだけで終わりだったかもしれませんね。笑

伊藤君の入院ですが、宮内さんの狙い通り――という感じで今の紅葉は語っていますよね。
さて、宮内サイドの語りが無いだけにどうなのか……
この辺は後にちょっぴり関わってくる部分かもしれないです♪

≫これぞまさしく恋する女の子の思考回路……
↑ありがとうございます!そう言っていただけると嬉しいです!
まぁ女性だけに限った感情ではないかもですが、「紅葉の言葉で書く」と決めた物語なので、一番気にしているところかもです。
男らしい思考回路の女性キャラというのも大いにアリですが、紅葉に関してそれはNGだと思うので。w

恋の行方と生霊の行方、今回はこのテーマ2つが綯交ぜな感じなので、楽しんでいただけたらと思います!
釣りに行かない日が続くと小説の更新は早くなりますw
次も早目かもです。笑

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/17 22:22 | edit

Re: タイトルなし

>limeさん
紅葉のドキドキ感が伝わったようで嬉しいです(∩´∀`)∩

やっぱりあれですかね、八方美男よりも普段は仏頂面でちょい話しかけづらいのに、あることを切っ掛けに笑顔を見せてくれるようになった男の子とかがツボに嵌りますか?w
ぎゃー!それは男女をひっくり返してもツボります!!ww

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/17 22:31 | edit

Re: タイトルなし

>けいさん
≫ぷぷ。紅葉ちゃんの乙女っぷりが超かわいいです。
↑ありがとうございます!
まさか『超』がつくだなんて!!w
ポケットからですがあかりが珍しく突っ込みに回りました。
あいつ、できる子ですw

えっと、実は「策」と呼べるような策がこの後登場しますん………
と、とととりあえず経過をご覧いただけたらと思います……^^;

伊藤君の病院シーンはちょいホラーに出来上がってますよ~♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/17 22:38 | edit

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