夢月亭~下手の横好き~

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小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.3  

   小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.3



「紅葉、何か良いことでもあったのか?」
 その日の晩の営業で、最近では足繁く店に通うようになったろくろ首のカクテルを作りながら、マスターが私に尋ねました。
「え? べ、べつにぃ」
 私は厨房でお皿を洗いながらとぼけます。洗ったお皿は左にパス。私の左ではあかりちゃんがお皿を拭いてくれているのです。
「そうか? 今日は妙に機嫌よさそうじゃないか」
「そ、そんなことないよ」
 あくまでとぼけ切るつもりの私に、あかりちゃんが小声で尋ねます。
『紅葉、なんで誤魔化してるの?』――って。
 私も小声で返しました。
「だって……恥ずかしいじゃない…」
 そうですよ、恥ずかしいですよ。友達ができて嬉しいんだ――なんて報告は、そりゃあ色々と知っているマスターには吉報かもしれませんが、実際にはほんの二、三分話しただけですし、花の女子高生が嬉々として話すことではないようで、というか、あんまりに幼稚な報告という気がしないでもなくて……とにかく恥ずかしいのです。ですが私の上機嫌はボロボロに漏れていた様子で、ろくろ首も私をからかいました。
『紅葉ちゃん、どっからどう見たっていつもより機嫌良いわよね、マスター。ひょっとして、好きな男の子と何か良いことでもあったのかしら』
 なんて冗談を、首を伸ばして厨房にも聞こえるように言うのです。
「もうっ、からかわないでよ、ろくろ姐ったら。そんなんじゃないってば!」
『あははっ、ムキになっちゃって。紅葉ちゃん余計に怪しいわよ』
 酔って上機嫌のろくろ首は私をからかうのに余念がありません。
 因みに「ろくろ姐」とはろくろ首のアダ名です。ろくろ首と言えば古くから日本に伝わる有名な妖怪ですから、私も初めは和服姿の女性を想像していたのですが、実際こうしてお店に来るろくろ首はずっと垢抜けていて、服装だって洋服ですし、髪もアップにしていてどこか水商売のお姉さん方に近い雰囲気なのです。そんなろくろ首をあかりちゃんが「ろくろ姐」と呼び始めたのが切欠で、すっかり馴染んでしまいました。首を伸ばしていない時なんて、どこからどう見たって普通の女性なんですよ?
『どうするの? マスター、看板娘が恋煩いよ?』
 ろくろ姐の矛先と首は反転してマスターへ――マスターのセリフは珍しくどもっていました。
「いや、そ、その、俺としてはだな……その辺は口出しするような、ア、アレじゃなくて……あ、ほら、カクテルできたぞ、ろくろ」なんて、どこか誤魔化したような雰囲気のマスターは珍しくて、私とあかりちゃんは顔を見合わせて首を傾げました。
 ともあれ、ふふふ――私も妖怪に慣れたモノじゃありませんか? いえ、この店の中限定なんですけれどね。この店に来る怪異は邪気払いの札の効力を受けないモノ達ばかりですし、なんだかんだとみんな気性がいいんです。マスターがいるのも心強いですしね。話せる妖怪とは私も結構お喋りするんですよ?
 ――そして皿洗いも終わって一段落の、私とあかりちゃんにオレンジジュースを差し出したマスターの行為に甘えて、私達もカウンター席に座って一休みです。
『そう言えばね、マコっち、今日は教室で変なの見たんだよ』
 あかりちゃんは思い出したように言いました。放課後以、降坂之上君のことで頭がいっぱいになっていた私にも、その「変なの」は記憶に新しく、直ぐにあの黒い宮内さんの怖さを思い出したのです。
「そうだった! あのね、マスター……」
 私は授業中に見たモノをマスターに説明しました。すると口を開いたのはマスターではなく、私の右隣に座っていたろくろ姐――。
『嫌ね、きっと生霊だわ』
『いきりょう?』
 尋ねたのはあかりちゃんです。自分自身幽霊であるあかりちゃんには、何だか妙な言葉に聞こえたのかも知れません。
『そう、生霊。幽霊は死者の残留思念だけれど、生霊は生きている人間の離脱思念とでも言うのかしら』
「そうだな、強い想いが形になって、本人にできないことを代行したりすることもある」
 ろくろ姐の言葉を引き継いで説明したのはマスターです。私はマスターに尋ねました。
「本人にできないことって?」
「強い想いが良い方向に向いているのなら伝令だな。遠く離れた人に言葉を伝えたり、姿を現したりする。悪い方向なら――霊障を引き起こす」
『まぁ、大抵は悪い方向なのよね。人間の恨みって、とても大きな力に成り得るから。呪術を使わずに無意識で呪っているのよ』
 どうやらろくろ姐は以前にも生霊を目撃したことがある様子です。きっとそれは悪い方向を向いた生霊だったのでしょう――ただ私の説明を聞いただけの第一声が「嫌ね」――でしたから、生霊=恨み、の図式は大抵のそれに当てはまってしまうのかも知れません。
「じゃあ、やっぱり……」
 やっぱり――と私は思いました。黒い宮内さんと伊藤君の体調不良は、きっと無関係ではないのでしょう。黒い宮内さんからは確かな邪気を感じましたし、邪気を放つ存在が背中にぴったりとくっついていれば、誰だって体調を崩してしまいそうなものです。
『じゃあさ、宮内さんは伊藤君にすっごく強い恨みを持っているってことなの?』
 そう尋ねたのはあかりちゃんです。マスターはそれに対して「たぶんな」と頷いたのですが、彼女はなぜか納得しかねていました。
『そんなことってあるのかなー…。あの二人、ちょっと前まではすっごく仲良さそうだったんだよ?』
 あかりちゃんはクラス内のことを本当に良く知っているみたいです。きっと立ちんぼしながらじっくり観察していたのでしょう。仲の良い二人を知っているあかりちゃんは、その二人が呪ったり呪われたりしていることに現実味が薄い様子です。
 そんなあかりちゃんの無垢に、ろくろ姐は笑顔で溜息を吐きました。
『きっと、愛情の裏返しなのよ――』
『う~ん、よく分かんないよ………じゃあさ、これにも何か意味があるのかな?』
 あかりちゃんは黒い宮内さんの真似をして手を叩こうとしました。次の瞬間――
「やめろ!」『やめて!』
 マスターとろくろ姐が同時に叫んだのです。二人の表情は真剣そのもので、驚いた私とあかりちゃんは二人同時に「ひっ!」と身を屈めました。
「………な、なに? 急にどうしたの? 二人とも……」
 怒られたのかと勘違いのあかりちゃんは半べそで私の左腕にしがみ付いています。私はそんなあかりちゃんの背中をさすりながら尋ねました。
「この拍手、そんなに良くないモノなの?」
 この拍手――黒い宮内さんが伊藤君に打っていたそれは、かなり独特な拍手です。通常は掌と掌を打ち鳴らすのが拍手ですが、彼女の生霊は逆に、手の甲と手の甲を打ち鳴らしていました。良くある幽霊の図のように、だらりと垂れた手と手を打ち合わせる、一見するとかなり不気味な拍手なのです。
「それはな、逆手拍手って言うんだ」
「さかてはくしゅ?」
「そう。逆さ事って知っているか? 死者の世界とこの世はあらゆる物事が逆であるされる考え方だ。こちらが昼なら向こうは夜とされ、着物の着方、屏風の立て方までも逆であると考えられている。現に今でも、葬式では御遺体の着物を逆さに着せたり、足袋を左右逆に履かせたりする風習は残っているんだぜ? つまり、その拍手は死者の拍手だ」
「えっと、つまり……どういうことなの?」
「歓迎しているのさ。ただし、この世とは逆の世界へ、な」
『つまりね、死ね――ってことよ』
 マスターの説明を氷のような冷たさで結んだのは、ろくろ姐。私は背筋にゾッとしたものを感じました。そう、歓迎の逆は追放であり、それはつまりこの世からの、なのです。死者は、手を叩いてそれを寿ぐ。
 私とあかりちゃんは身を寄せ合って、微かにお互いの震えを感じ合いました。その時、う~んと唸ったのがマスターです。
「変だな……」
「? マスター、何が変なの?」
「いや、どう考えたって変だろ? だってその逆手拍手をしているのは生霊だ。死んでない。幽霊じゃないんだ」
『そうよね。確かに変よ』
 ろくろ姐が相槌を打ちます。私には何が変なのか今一ピンとこないのですが、どうやらその様子を見る限り、逆手拍手は死者しか使わないもののようです。
「でも、確かにしてたよ? その、逆手拍手ってやつ……」
「う~ん…」
『う~ん…』
 それからしばらく、マスターとろくろ姐は唸り続け、結局その疑問は解決を見ないまま、この日の晩はお開きとなりました。どこへ行くのか分かりませんが、『また来るわね』の一言を残し、ろくろ姐は手を振って店を後にします。
 私達も後片付けをして店を出ましたが、何だか帰り道の暗闇はいつにも増して恐ろしく、私とあかりちゃんは腕を強く組んで歩きました。
 暗闇が怖い時、誰かと寄り添いあえるのは心強いものですが、そう言えばこの子、幽霊なんだよなぁと思ったのはベッドに潜ってから。きっと、私が本当に怖いと思っていたのは怪異ではなく、『死ね』と手を叩く程の心の在り様だったのです。その気持ちは、外灯の少ないこの町の夜のように、黒く暗いモノに違いないと、私は想像していたのでしょう。

                                      ≪――続く≫
前話→『紅葉の失恋』No.2   次話→『紅葉の失恋』 No.4


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Posted on 2016/07/13 Wed. 01:41 [edit]

category: 小説:紅葉怪奇譚Ⅱ

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説 
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コメント

今回はいろんなキーワードが出てきましたね。
生霊、逆手拍手などなど。
ろくろ姐もいい味だしてますね(笑)

生霊ってわたしは結構個人的に信じてるほうなのですが、
こう、単純に恨みつらみをもってたらそういうのって
相手に届きそうですよね。
もちろん逆もしかりですが、ろくろ姐もいってたとおり、
どちらかというと負の感情と親和性が高いのかもしれませんね。
宮内さんと伊藤君は何かあったのかなあ。
愛情が裏返って憎しみに変わるのは女性ならではなのかも。
紅葉ちゃんも淡い初恋を覚えたばかりだし、
二人を通して恋の難しさをこれからどんどん覚えていくのかしら。

生きてる人間には逆手拍手って使えないんですね。
生きてる人間が使っても効果がないとかそんな感じでしょうか?
宮内さんは実は幽霊なのかな〜?
気になって仕方ありませんが、
首を長くしてお待ち申し上げております。(ろくろ首なだけに)

URL | canaria #-
2016/07/13 13:49 | edit

ろくろ姐のおかげで、ろくろ首の印象が美人の姐さんとなっております。
ここに集まる人(?)たちはホントみんな良い人(?)たち(?)

それにしても、こちらとあちらとは真逆。生霊とはワケアリな。
幽霊のあかりちゃんが違和感を感じ、マスターと姐さんがうーんとうなるこの話題、どうなっていくのでしょうか。
まだまったり?

URL | けい #-
2016/07/13 15:36 | edit

Re: タイトルなし

>canariaさん
こんばんは!
ですね~、今回は後に繋がるパーツがだいぶ出そろいました。(ほぼ出切ったか!?w)
ちなみにろくろ姐、なんと今回しか出て来ません。笑

負の感情ってなんであんなにパワーありそうに思えるんでしょうね^^;
逆に、良い感情程パワーになるイメージってあまりない………なんだか儚い感じです。
(そういうお話が多い所為なのか…)

僕の個人的な見解ですが、愛情が裏返って憎しみに変わるのはなにも女性だけではないと思いますよ~。
男にもそういうタイプっている気がします。
ですから物語を書く上でなら、特に重要なのは恨みの切欠かなぁなどと考えました^^
(あ、じゃあ宮内さんには切欠があるわけですね。w)

逆手拍手に関しての設定は、これまた個人的な見解です!笑
生霊が『歓迎』していたら『しね』よりも『幽体離脱へGO!』みたいな気がしたんですよねw

canariaさんの首が長くなり過ぎないように次も更新しますね^^
またよろしくお願いします!

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/14 00:50 | edit

Re: タイトルなし

>けいさん
こんばんは!
ろくろ首って本当に有名なだけあって、逸話も多いんです。
中でも新吉原の芸者の首が伸びたという話がイメージに残っていて、結果現代風に水商売のお姉さんという表現になりました^^
ですからきっと美人さんだと思いますw

人(?)ではないですねw
いい奴らです。笑

もうしばらくお話はまったり進みますよ~^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/14 01:43 | edit

うわあ~><
逆手拍手・・・。ちょっと想像しただけでめちゃくちゃ怖いです。
不気味で、鳥肌・・・。

きのう友達に怖い話をされちゃって、まだ余韻に怯えてるので、余計怖い。(ホラーがめっちゃ苦手なんです)

この宮内さんの生霊の謎、気になりますね~><
今度は誰が謎を解いてくれるんでしょう。

URL | lime #GCA3nAmE
2016/07/14 09:32 | edit

こんにちは!

ろくろ首が洋装でお水の姉ちゃんぽい…(^_^;)
ちょっと想像してみました。そうですねー、現代ならそれもアリかもですね(笑)
見てみたい気もしますけど。

逆手拍手てのはそっち系の話でしばしば耳にしますね。
清修さん、そんな事まで調べて話に書かれているんですね~。勉強家ですな。
そういえば幽霊と妖怪は似て非なるものだと思うんですけど、そこらへんの線引きってどうなんでしょうね。
いや、ちょっと気になったので…。

URL | いぬふりゃ☆ #-
2016/07/14 13:49 | edit

Re: タイトルなし

>limeさん
こんばんは!
Ⅰにホラー要素がほとんど無かったのでⅡにはちょっぴり導入ですw
ですが薄めですのでlimeさんも大丈夫だと思いますよ~^^たぶん…

ふふふ、この物語、実は探偵不在です!(やべっ、どうしよか…)

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/14 21:57 | edit

Re: タイトルなし

>いぬふりゃ☆さん
こんばんは!
ろくろ首=吉原の芸者という僕のイメージだったのでお姉ちゃんになっちゃいました。笑
きっと美人なのでどこかのお店で稼いでいるかも…w

逆手拍手って有名ですよね^^
僕も初めて聞いた時にかなり怖くて印象に残っていて……で、ネタにさせていただきました♪
色々な怪談に使われていたのでいいかなぁ~と。w

あー、どうなんでしょうねぇ?
確かに線引きって微妙な部分がある気がします。
僕は『人間のままの怪異』というイメージで幽霊を書いているので、妖怪の方が何でもアリって気がしてます。

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/14 22:07 | edit

ちょw 少し来なかった間にめっちゃ更新されてるw
急いで読み進めないととΣ(゚Д゚)

おお!新しい妖怪ろくろ姐さん登場ですね♪ 
しかもろくろ姐さん華やか系の美人さんとは!
妖怪も時代に合わせてファッション変えるんですね。
ふと思ったんですがろくろ首って喉風邪引いたらうがいとかどうするんでしょう…。うがいしても奥まで届きそうにない…。(どうでもいい話であった…

このお話にはいろんな妖怪さんが出てきて楽しいです(^^)他にも色々出てくるのかな♪

そしてあかりちゃんは食器とか持てるんですね。なんか幽霊って物とかすり抜けちゃって持てないイメージがありました(-_-;)

そしてそして、逆手拍手…死者の拍手なのですね…。
『つまりね、しね――ってことよ』
ってとこゾクッとしました((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
生霊を飛ばすとは…黒い宮内さんはいったい何をしようとしているんだ…。


あ、そうそう。私事ですが、先日念願の鮎の塩焼きもらいましたー!ヽ(=´▽`=)ノ(大分前に鮎の塩焼き食べたいってお話ししたの覚えてくれてますかな??)
とっても美味しかったです(*´ェ`*)夏は暑くてまいりますが、これだけはいいですなぁ( ̄ー ̄)ニヤリ

URL | たおる #-
2016/08/08 02:25 | edit

Re: タイトルなし

>たおるさん
おー!たおるさんだ!w
お久しぶりな気がしますが、たぶん一か月ぶりくらいですかね?
紅葉怪奇譚Ⅱは間もなく完結しますよ~。
そんなに話数多くないので、どうぞ慌てずに楽しんでください^^

ろくろ姐のうがい………やばい、すごい見てみたいです!(勿論長い状態でw)
きっと実際には首を元通りにしてするんでしょうね。
ろくろ姐、ファッションが今時なのには理由があるかもです。
人に紛れて何かしているのかなぁ?(←あ、これ妄想ですから!)

幽霊に関しては触れることも触れないこともできる、というイメージで書いております^^
あかり、一話目では居眠りして思いっきり掃除用具入れに頭ぶつけてましたしw

お、ゾクゾクきましたか?
今回は前回より怪談風味を目指していたので嬉しいです♪
逆手拍手は今回ちょっとしたキーなので、たぶんまたどっかで……

鮎の塩焼き!ついに頬張りましたか!wちゃんと覚えてますよ~(∩´∀`)∩
確か鮎をお裾分けしてくれるオジサンがいた気がします。
その方がついに訪れたのかな?
最近の暑さは本当に厳しいですが、その食欲があれば大丈夫ですね!w
夏バテにはお互い気を付けましょう~^^
僕は最近冷房にやられ気味です……orz

URL | 夢月亭清修 #-
2016/08/08 12:27 | edit

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