夢月亭~下手の横好き~

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小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.2  

   小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.2



 恋の訪れは、どうして突然なのでしょう? 人付き合いに不慣れな私だったから、そう感じてしまったのでしょうか? 話し掛けてもらえて、嬉しくて、そして「また明日な」――なんて言葉が私を舞い上がらせたのです。初めは友達ができたに違いないと思って喜んだものですが、ではどんな明日が待っているのかと考えた時に、その相手はとっても爽やかな異性でしたから、知らず知らずの内に私は恋をしてしまっていたのでしょう。
 そのタイミングは(一昔前風に言うならMK5――でしょうか?)、振り返ってみれば皮肉なもので、私とあかりちゃんが黒い宮内さんを目撃したその直ぐ後でした。

 以前なら、放課後は誰かに話し掛けてもらいたくて意味もなく教室に残ったりしていました。ですが今はあかりちゃんがいるのでそんなことはせず、ホームルームの終わりとほぼ同時に教室を出てしまいます。
 それはそれで問題なのかも知れませんが、気にならなくなったので仕方がありません。――いえね、私、普通の女子高生にとって放課後の雑談は身に付けるべき社交マナーではないかと、そのように考えていたのです。だって、みんながそうしているんですもの……。ですがあかりちゃんも私も今では野良猫達の仕事が大好きですから、早く店に行こうという共通の意識でもってそそくさと出てきてしまうのです。
 そそくさと教室を出て、この日の私たちの話題はさっき見たばかりの黒い宮内さんのことでした。
「あかりちゃん、さっきのアレ、なんだったんだろう?」
『えぇ~私じゃ分かんないよぅ。店に着いたらマコっちに聞いてみよう?』
「うん、そうだね……」
『どうしたの? なんか元気無いよ?』
「……なんだかね、嫌なモノ見ちゃったなぁ……って感じがするの。あかりちゃんは怖くなかったの?」
『吃驚はしたけどね。そんなに嫌な感じだった?』
「うん、もうね、絶対にこっち向かないで! って思っちゃった」
『へぇ、じゃああれは良くないモノに違いないね』
「どうして断定しちゃうの?」
『マコっちが言ってたよ。紅葉のセンサーは敏感で正確だって。何かあったらお前も紅葉の行動に従って逃げろってさ』
「そういえばこの前の塊、あかりちゃんのことも追い掛けてたもんね」
『みたいだね。でも私にはそれが何なのか分からないし、紅葉にだけ見えている場合もあるかもしれないから、何かあったら直ぐ言ってよね』
「うん、わかった――あ、話変わるけどあかりちゃん、今日は深夜にテレビ見るのもゲームするのも禁止だから。私部屋が明るいと寝付けないの」
『えぇ~! なんでだよぅ! 今日は見逃せないアニメがあるのに! 今良い所なんだってば!』
「駄目! 録画してあげるから、また今度ね」
『嫌だ嫌だ! リアルタイムで見るのが礼儀だもん!』
 話が逸れて、一体どこのマナーだよ! と私があかりちゃんにツッコミを入れたのはちょうど下駄箱の前。あかりちゃんの抗議を話半分にはいはいと流しながら、私はズックをローファーに履き替えます。そこで――
「きゃあ!」
 話半分――しかし半分は聞いているのです。それが良くなかったのか、運動音痴の私は履きかけのローファーを滑らせて、思い切り良く前方に転んでしまいました。
 顔を庇った腕で、下駄箱前に敷き詰められた簀子を擦った私は、顔よりもお尻が高い位置にある滑稽な姿勢で着地し、そして――
 衝撃に閉じた目を恐る恐る開けた先には、誰かの手が差し伸べられていました。あかりちゃんかと思いましたが、その手は女の子のものよりも少し分厚くて、まだ春にも関わらずほんのり日焼けしています。私がそれに気付いて、あれ? と思うのが先か後か――低い男の子の声が降ってきました。
「大丈夫か?」
 上目使いに見上げれば、そこにいたのは青の短パンに白いTシャツ姿の男の子――その格好はサッカー部の練習着です。通りすがりのサッカー部員? いいえ、細い切れ長の目が特徴的な端整なその顔には、見覚えがあります。
 坂之上康君――彼は一年D組のクラスメイトです。人の名前をいまいち覚えない私ですが、彼は中学でも同じクラスだったことがあるので覚えていました。向こうは私のことなんて覚えていないかも知れませんが……。
 さて、ここで私は恥ずかしい格好のまま固まってしまいました。私にとって彼の登場はあまりにも突然だったので、声も出せない程吃驚していたのです。手を差し伸べてもらうなんてことも、私には親かマスターにしかしてもらったことがありませんから、その手をどうしていいのか分からなかったのです。ですが――
「おい、大丈夫か? ひょっとして頭打ったんじゃ……」
 坂之上君が本気で心配そうな声を上げたので、冷静ではない私もバタバタと慌ただしい挙動ですが、その手を握ることができました。心配させちゃいけないと、そんな一心です。
「だ、だだだ大丈夫、です。あ、ありがとうございます――」
 どうにかこうにか立ち上がった私に、彼はなおも心配そうな声を掛けます。
「どこも痛くないか?」
「は、はい……たぶん…」
「なら良かった。気を付けろよ」
「は、はい。すみません」
「なんで謝るんだよ?」
「え、えっと、その…ご迷惑、おかけして…」
「大したことじゃないだろ? それより、クラスメイトに敬語とか使うなよ、柿川」
「は、はい――あ、うん……」
 あ、私の名前、覚えてくれていたんだ――と、私は少しだけ嬉しくなりました。あかりちゃんの言に沿えば、クラスメイトの名字くらいは当たり前なのかも知れませんが……。
「まったく、クラスから怪我人やら病人が出るのは嫌だからな。ほんと、気を付けてくれよな」
「う、うん…ありがと」
 ここで彼が病人と口にしたことが、私には引っかかりました。なにせその病人に、心当たりがあるのです。
「……伊藤君も、早く良くなるといいね」
 何の気なしに言った私のその言葉に、彼は大きく頷いて言いました。
「だな。あいつ、本当に顔色悪くってさ……本来あんなに黒い顔してるやつじゃないんだ。体動かすことだって好きだし、病気するようなタイプじゃないんだけど……」
「そ、そうなんだ」
「ああ。一応病院は進めておいたけどな…」
「心配だね……」
 なんだか、人の心配ばかりしている人なんだなぁ…と私は思いました。私の中にあった彼のイメージは、どちらかと言えば大雑把な雰囲気と言いますか、彼はいつも男子グループの中でイキイキとしていますから、気配りするようなタイプには見えなかったのです。ですから、とっても意外な一面を見たような気分でした。
 そして彼は表情を一転、ニカッと笑って私の肩を叩きました。
「お前、良い奴なんだな」
「え?」
「だって、話したこと無いだろ? 伊藤とさ」
「う、うん…」
「でも心配してる。だから良い奴だなって」
「そ、そんなこと、全然……」
 本当に全然です。だって、彼が苦しそうに咳を繰り返していることだって、さっきあかりちゃんに教えてもらってやっと気が付いたのですから。なんだか買い被られてしまって……、ですが一生懸命それを否定するのも彼に失礼ですから、私は恥ずかしさいっぱいに俯くことしかできません。
「謙遜すんなって。お前、良い奴だよ。やっぱ、噂なんて当てにならないな」
「え? あっ――」
 彼が口にした、噂――それはおそらく、中学の頃の噂を指して言っているのでしょう。そう、「塩掛け婆」です。影で私のことを指す、私にとっては忌まわしいアダ名――彼もそれを知っていたのです。
「良かったよ、話し掛けてみて。クラスメイトだしこれからもよろしくな。それじゃ、また明日な――」
 練習の時間が迫っていたのか、彼は颯爽と駆けて校門を潜り、グラウンドの方角へと折れて行きました。
 下駄箱の前に取り残された私は、彼の背中と風に揺れる短い髪に、どうしようもなく眩しさを感じていました。

 なぜか、目が離せないような眩しさを――

「良い奴……か…」
 私は呟いて、こう思いました。
 本当に良い奴なのは、むしろ彼の方。
 噂を知りながらも、手を差し伸べてくれた彼はとっても良い奴で、人の心配に腐心するような、とってもお人好し。
 それを今、私は知ったのでした。
「ねぇあかりちゃん! ひょっとして私! 友達ができたのかな!?」
 彼がいなくなって緊張が解けた私は、隠しきれない浮れようで振り返ります。ですが、そこにあかりちゃんはいませんでした。
「あれ? あかりちゃん?」
 きょろきょろと辺りを見回しますが、やっぱりどこにもいません。すると――
『ここだよー、もーみじー』
 声はいつもより微かに、私のポケットの中から――そこには件の木片が入っています。そう、あかりちゃんの憑代とでも言うべきあの木片です。どうやらあかりちゃん、憑代の中に引っ込んでいたみたい。
「なんで隠れてるのよ」
『ん? んーなんでかなぁ。何となくそうした方が良いような気がして』
「なにそれ。変なあかりちゃん」
 まぁこの方が静かでいいか、なんて私は思いながら、バス停に向かって歩きはじめました。歩く――と言うよりはスキップしそうな軽い足取りで、野良猫達を目指します。
 さて、今日はどんなお客様がやってくるのでしょう。

                                      ≪――続く≫
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Posted on 2016/07/05 Tue. 22:45 [edit]

category: 小説:紅葉怪奇譚Ⅱ

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説 
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コメント

こんばんは( 'ω')ノ

むむむ…ブロークンハートの相手は単純に伊藤くんなのかと思っていましたが…
ひょっとしたらちゃうのかしら??
それとも坂之上くんもトラップで、また別の誰かなのでしょうか???
むぅ…これは今後のエッチな展開に期待…(違)

URL | いぬふりゃ☆ #-
2016/07/05 23:05 | edit

おお。爽やかな出逢いと好感度抜群の印象?
あかりちゃんが気を使ってポケットの中に控えるなんて良い子ね。

さて、明日も楽しみなのですが、その前に今夜のお客様とのお話かな。
そちらも楽しみです。

URL | けい #-
2016/07/06 19:33 | edit

わわっ、本当に恋の訪れはどうしてこう突然なのか。
紅葉ちゃんの恋愛フラグ立ちまくりの予感ですよ!
まだ決めつけちゃいけないけど紅葉ちゃん恋する
女の子の顔してる気がします。
しかもよりによって、というか、坂之上君てば
サッカー部で正当派の男の子なんですね。
きっかけがないと中々話すこともないような
感じの男の子だけど、こんなふうにまっすぐに自分を肯定して
もらえたら嬉しいだろうなあ。
伊藤君のことが何げに距離が縮まるきっかけになってますね(*´ω`)
「塩掛け婆」の汚名も返上できたようですし(^-^)

URL | canaria #-
2016/07/06 20:18 | edit

Re: タイトルなし

>いぬふりゃ☆さん
こんばんは!
ひょっとしたら違いますね^^おそらく坂之上君です!
坂之上君が違ったら紅葉ってすごい気の多い子になってしまう。笑

この作品でエロ展開があったらヤヴァいですね!www
通報されてしまうw

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/06 23:41 | edit

Re: タイトルなし

>けいさん
こんばんは!
好感度抜群っぽいですね^^
あかりはあんなですが、なぜか時々空気を読む子です。笑
(元々空気のような子だったからでしょうか?w)

そう、その前にストレイキャッツのお話が次に控えています~♪
新しい妖怪が出て来ますよ^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/06 23:44 | edit

Re: タイトルなし

>canariaさん
こんばんは!
おお、さすがcanariaさんナイス妄想!w
紅葉が語り部なだけになかなか本人の表情って描写できないのですが、そういう風に読んでもらえると嬉しいです^^
坂之上君はほんと、紅葉の語る印象だと「正統派」って感じですよね。
男の子らしい男の子と言うか、切欠が無ければ話す機会も無いのは紅葉もそうだったんじゃないかなぁと思います。

いやぁ、一話の方で「塩掛ババア」の話出しといて良かったですよ!w
裏設定に埋もれそうだったんですが、役立ちました。笑

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/06 23:50 | edit

おお~

これはキュンとする恋の訪れ!
最初は伊藤君に恋するのかと思ってたら、違ったようですね。
坂之上くん、爽やかでものすごく好青年。こんな会話しちゃったらもう、好きになるしかないでしょう。
でも、もしかしたら坂之上君はみんなにこんな風に優しいのかも、なんてw
そして憑代にひっこんじゃうあかりちゃんも可愛い。
ポケットあかりちゃん・・・。(笑)
黒い宮内さんの事も気になりますし、次回を楽しみにしています。

URL | lime #GCA3nAmE
2016/07/10 09:13 | edit

この少年が恋の相手ですね!
爽やかでいい奴ではないですか。伊藤くんの心配もしているし、紅葉ちゃんの名前も覚えている……。
あかりちゃんも気を利かせて隠れているとは。やっぱり恋の空気が出ていたんですね♪

あ、あかりちゃんは録画は邪道派だったんですね(笑)
確かに好きなアニメはリアルタイムで見たいですよね。でも録画すると何度も見れるよ( ´∀`)bグッ!

「また明日」って言われたら「明日があると思うなよ!」って思ってしまう私には乙女度が足りないようですorz紅葉ちゃんを見習わないと(^_^;)

伊藤くんのことも気になりますが、お店にくるお客も気になります。
また読みにきます♪

URL | たおる #-
2016/07/10 15:24 | edit

Re: おお~

>limeさん
こんばんは!No2の読了感謝です!

≫でも、もしかしたら坂之上君はみんなにこんな風に優しいのかも、なんてw
あっ!その可能性は高いですねw
他の人と坂之上君の交流シーンは非常に少ない予定ですが、なんとなくイメージとかけ離れないですwあいつめ……
伊藤君もイケメンですが、彼はその……ごにょごにょ…

あかり、空気を読んだり読まなかったり、出たり入ったり自由です。自由すぎます。笑

次回も是非よろしくお願いします♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/10 22:34 | edit

Re: タイトルなし

>たおるさん
こんばんは!No2の読了感謝です!

坂之上は爽やかでイイヤツ!←これは間違いないです。裏とか全然無いんですよ。ええ、ほんと…w

あかりはリアルタイム派です!
なぜなら待ちきれないのと録画の仕方が分からないから!w
確かに何度も見れるのは録画の利点ですね^^(あかり、そこには気づいてないんじゃ…)

≫「また明日」って言われたら「明日があると思うなよ!」って思ってしまう私には乙女度が足りないようですorz
ひえぇっ!これ、恋愛で考えると凄いセリフです!!
即断即決を強いているような……草を食ってる奴には絶対に付いて行けなそう。笑
男前という意味では確かに乙女度は……w

次回予告→『茶釜は来ない!』
あいつはいませんが是非またよろしくお願いします^^;

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/10 22:45 | edit

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