夢月亭~下手の横好き~

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小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.1  

   小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の失恋』 No.1

 ――≪開幕歌(2016.08.01追記にて書き下ろし)≫――

 子の瞳に眩い粒の

 その色問わずと

 微笑む目あり

        *

 時折雪のちらほら降るは三月の、まだ私が中学を卒業して間もない頃のことです。私は着慣れない青いブレザーに身を包み、その新しい制服姿を三人に見せる為、野良猫達(ストレイキャッツ)に足を運びました。
 そんなお披露目会染みたことを私自身が主催するはずもなく、それは三人に、特に翠さんにねだられて行われることになったささやかな夕食会、私の入学祝です。
 貸し切りのお店は四人には少し広いようでいて、しかしお酒を飲んではしゃぐ三人には物足りないくらい。私は三人に散々制服姿を褒めちぎられて、隠しきれない照れに頬を染め、カウンター席に座っていました。目の前にはカウンター越しにマスターが、左右は新郎新婦に固められて、嬉し恥ずかしの宴席です。
 たった四人だけなのに賑やかで、楽しくて、そんな素敵な時間でさえ、いいえ、素敵な時間だからでしょうか? それでも、妖精は通るもの――やがて訪れた一瞬の沈黙は、祐介さん十八番の格言を味わうのに打って付けで、私にはとても印象深く残っています。

「青春の失策は、壮年の勝利や老年の成功よりも好ましい――」

 これはベンジャミン・ディスレイリィの言葉だそうです。私はその人物を寡聞にして知りませんが、その意味は解り易く、つまり祐介さんは、「失敗を恐れずに行動しなさい」と、「失敗からも学ぶことがあるのだから」と――だから頑張れ、と、内気で内弁慶な私を勇気付けるつもりでそう言ったのです。
 当の私は、言葉の意味よりも祐介さんのその行為が嬉しくて微笑みました。嗚呼、応援してくれる人がいるんだな――って。
 そうして祐介さんは、丁寧にラッピングされた一つの細長い包みを私に渡します。「これは僕達三人から、君へ――」と、お酒の為に赤く染まった顔でにっこりと微笑みながら。
 中に入っていたのは大人びたアンティーク調の腕時計、今ではすっかり腕に馴染んだそれです。嬉しくて、嬉しくて、私は何度もありがとうを繰り返しました。
 嗚呼、素敵な時間でした――素敵な思い出です。ですが、そんな優しい記憶とは裏腹に、今回これからお話しさせていただく内容と言えば、私にとっては恥ずかしい、恋の話、恋の失敗談――なのです。いいえ、ある意味成功と言えますし、例えばこの出来事を何度繰り返したって私は失敗を選び、成功を手にするに違いありません。だって、この頃の私に、恋愛経験皆無だった私に、別の道は絶対に選べないでしょうから。
 入学以来、教室の幽霊に気を取られていた私ですが、それも落ち着いた四月の終わりに、私こと柿川紅葉は恋に落ち、恋に破れ、この素敵な思い出の中にあった言葉と再び会い見えるのです。
 いいえ、失敗から何を学んだか、それを語るつもりはありません。そもそもそれを言葉にできるような語彙であるとか、豊富な人生経験を私は持っていませんから……。
 言葉にできる日はまだ遠く、しかし、今後の私を形作る一つの出来事ではあったかな――と、そう思うのです。
 ですから、申し訳ありませんが今回のお話は私が失敗を得るまでの過程、ただただモノローグです。
 あかりちゃんを除けば同学年の友達が一人もいない、そんな私が経験した滑稽な恋物語は、バッドエンドで幕を閉じます。
 こうして振り返ってみると、緑濃くなる一方の葉桜は、そんな物語を暗示しているかのようでした。
 それでは始めましょう。案内人は私、柿川紅葉が務めさせて頂きます。
 どうぞ、ごゆるりと。

     *

 私の在籍している一年D組の教室が旧校舎から視聴覚室へと変わり、普通の教室とは違う、コンサートホールを小さくしたような段差のある席、自分よりも低い位置にある黒板を見るのにも慣れ始めた頃です。授業は粛々と普段通りに、柳田先生の明朗な声が教室内に響き渡ります。
 私は私の傍らにふわふわと浮かんでいるあかりちゃんの雑談を懸命に無視しながら、黒板の内容をノートに写していました。
『ねぇ紅葉、昨日の晩に来た茶釜の狸さん、すっごく可愛かったね! 妖怪なんだからちょっとは言葉を話してくれてもいいと思わない? あんな可愛い妖怪なら私飼ってみたいな~』
 取り留めもないあかりちゃんの雑談は、勿論私にしか聞こえません。彼女もそれを分かっていて話し掛けるのです。つい先日までは掃除用具入れの前で立ちんぼしながら真面目に授業を聞いていた癖に、それが嘘のような変わり身です。なんというか、私と言う友達を得てスイッチが入ってしまったみたい――たぶん、授業中にノートの切れ端で手紙を回し合うようなコミュニケーションにも憧れていたに違いありません。いえ、それは私の憧れでもあるのですが……。
『ねぇねぇ、柳田先生の声ってあのアニメの意地悪上司に似てると思わない? あ、紅葉は寝てたから見てないっけ? あれ面白いんだよー、あんなに面白いのになんで深夜にやってるんだろうね?』
 ………。面白いテレビの話とか振らないで欲しいです。内容が気になります。
 最近のあかりちゃんはすっかり家にある近代機器に慣れ、夜遅くまでテレビを見ていたりゲームをしていたりと、何かにつけ長時間遊びほうけているのです。それは野良猫達での晩の営業の後だったりしますから、かなり遅くまでやっているのでしょう。私は眠くてそんな時間まで付き合えませんから、そそくさとベッドに入ってしまうのですけれど………それでいて毎朝一緒に登校する時は元気いっぱいのあかりちゃん、やっぱり、幽霊は疲れ知らずに違いありません。本当はもう少し大人しくしていて欲しいのですが、何と言うか……彼女の生前を知っている私としては、厳しくするのも気が引けてしまって――いいえ、こんなことじゃいけませんよね。あかりちゃんに注意できる友達は私しかいないのですから、もう少し生活態度を改めるよう促さなくては!
『う~ん……だいじょうぶかなぁ?』
「…? 何が?」
 私は小さな声であかりちゃんに聞きました。テレビアニメの内容だって気になりますが、突然意味の分からないボヤキを聞かされてしまっては、もっと気になると言うものです。彼女は一体、何を心配して「だいじょうぶかな?」――と言ったのでしょう?
『ほら、一番左前の席のあの子だよ』
 あかりちゃんはそう言って指を刺します。背の低い私は目立たないよう上半身だけで背伸びをして、その先を見遣ります。
「えっと…あれは誰だっけ?」
『もう、クラスメイトの名前くらい憶えないとダメだよ紅葉……そんなんじゃ友達できないぞ』
「………」
 自分だって似たようなものの癖に! と心の中で私は思いましたが、あかりちゃんに友達がいないのは幽霊だからです。流石に言い返せないので口を噤みました。
『あれは伊藤四郎丸(いとうしろうまる)君だよ。特徴的な名前だよね』
「確かに、一度聞いたら忘れられない名前だね」
『紅葉、忘れてたじゃない』
「………」
『彼、すっごく綺麗な顔してるから女子に人気あるんだよ。確かに綺麗だよね。キザな言葉も様になりそうって感じ。入学してまだ間もないのに、結構な有名人なの』
「どうしてあかりちゃんがそんなこと知ってるの?」
『えへへ、それはヒ・ミ・ツ』
 人差し指を口元に当ててウィンク一つ――のあかりちゃんに私は若干引きました。うわぁ……かなりぶりっこな仕草だなぁ――と。ですが私のジト目もなんのその、あくまでマイペースの彼女は気にも掛けずに話を続けます。もう一度、伊藤君の方を指さして――
『ほら、咳してる。ここ最近はずっとなんだよ』
「……本当だ」
 伊藤君は時折苦しそうに咳をしていました。ゴホ、ゴホと、それは止めたくても止まらないような、本当に苦しそうな様子です。言われてみれば、確かにここ数日の間、授業中に何度もその咳を聞いていたようにも思いました。
『顔色もね、すっごく悪いんだ』
「へぇ、あかりちゃん良く見てたね。私全然気が付かなかった…」
『ふふふ、クラスのことで私に分からないことは無いのだよ、紅葉君』
 なんだか自慢げに、どこぞの探偵気取りであかりちゃんはおどけて見せました。
 ここで私が「それ、何の真似なの?」と問えば、きっと授業中にも関わらず深夜アニメの話が膨らんでしまうこと間違いなしなので、私はそんなあかりちゃんを無視しつつ、もう一度伊藤君を見遣ります。伊藤君は相変わらず、苦しそうな咳を繰り返していました。
 彼とは話したこともありませんが――嗚呼、本当に、悪い病気でなければ良いのにと思いました。そう思って彼の背中を眺めていた私の目には、次の瞬間――
「――っ! あかりちゃん! あれ!」
 私の声は隣の席の子に聞こえてしまったかも知れません。ですが、この時の私は驚きのあまり授業中だと言うことも忘れて、伊藤君の背中を指刺してしまっていたのです。
 実は、あかりちゃんに促されて見ていた伊藤君の背中には、私にはずっと黒い靄のようなモノが見えていたのです。ですがそれの存在感と言うか、見え方は目の錯覚程度にも思えるような希薄さで、あかりちゃんもそれについて言及しませんでしたから、私はてっきり自分の気のせいに違いないと思っていて………ですが――
 その黒い靄が突如として存在感を増し、ある形に収斂し始めたのです。それは紛れもなく、ある女生徒の形に違いありませんでした。
『あっ!』
 恐らく黒い靄は見えていなかったのであろうあかりちゃんにも、その人型は認識できたようです。形が完全に人のそれと分かるようになった時、彼女も声を上げました。
『あれ、宮内和美ちゃん……』
「え?」
『…ほら、伊藤四郎丸君の右後ろの子…』
 そう言ってあかりちゃんは再び指を刺しました。そこには――
「――っ!」
 私は息を呑みました。伊藤君の背中にぴったりとくっつくように立っている黒い人影と、あかりちゃんが指差したその子、宮内さんの後姿は当に瓜二つ、いいえ、まったく同一のモノだったのです。一つは確かな実体で、もう一つは私達にしか見えない黒い存在なのですが、その大きな差がちっぽけに思えるほど、二つは確かに同一に見えました。
 見比べる間に気が付いたのは、実際の宮内さんが黒板をまるで見ていないと言うこと。彼女の顔は左前の伊藤君を凝視しているかのように傾いて、そして動かないのです。一体彼女はどんな表情で伊藤君の背中を見ているのでしょう――さらに遠く右後ろにいる私たちからは見えませんが、黒い彼女に少なからず邪気を感じ取っていた私は、そこに憤怒の表情があるに違いないと思いました。
 そんな想像に私が身を震わせ、あかりちゃんが驚きのあまり目を丸くしている最中、黒い宮内さんが伊藤君の後ろで手を叩きます。パチ、パチ、パチ――とそれは緩慢なリズムで、私達にしか聞こえない音。黒い彼女は独特の手拍子、いいえ、拍手を送っているのでした。
 誰に? それは勿論、伊藤君に送っているように見えます。彼はしばらくすると、一際苦しそうに咳き込むのでした。

                                            ≪――続く≫
紅葉怪奇譚Ⅰ『紅葉の相棒』はこちら→『紅葉の相棒』まとめ   次話→『紅葉の失恋』No.2


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Posted on 2016/06/28 Tue. 23:29 [edit]

category: 小説:紅葉怪奇譚Ⅱ

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説 
tb: --   cm: 8

コメント

うお。四朗丸くんの身に何が。クラスメイトとの関係は。気になるところです。

夢月亭清修さん、もう、プロローグ的入りからグッと引き込まれます。
あかりちゃんと紅葉ちゃんのときにギクシャクするような会話も楽しいです。

そうか。青春の失策は・・・
それにしたって、やりすぎたかもしれない。
しかも青春でもないいまだに・・・気をつけよう(><)

URL | けい #-
2016/06/29 18:25 | edit

バッドエンドなのか~

そういう前書きで始まる恋愛ものも、いいですねえ~^^
でも紅葉ちゃんには辛い恋物語だったんだろうなあ。

さて、すっかり紅葉ちゃんよりも女学生っぽくなっちゃったあかりちゃんですがw
こんな現象を見ちゃったら、二人で謎に挑むしかなさそうですね。
一体何が起こってるのか。
また楽しみに読ませてもらいますね。
(こそっと、茶釜も登場^^ 本当に飼っちゃえばいいのに)

URL | lime #GCA3nAmE
2016/06/29 18:52 | edit

Re: タイトルなし

>けいさん
こんばんは!
読了ありがとうございます^^
ええ、四郎丸君は脇役ですが気にしていただきたい彼です。笑

今回タイトルがもう『失恋』ってなってるのでwあくまでモノローグですよ~という前置きになりました。
あかりと紅葉はいいコンビのようでいて、紅葉の方はスルーしがち。
まぁ仕方が無いですよね^^;(あの幽霊は自由すぎるのでw)

お、やり過ぎちゃいましたか?
僕も年齢的に恥を知らなければ……笑

URL | 夢月亭清修 #-
2016/06/29 23:15 | edit

Re: バッドエンドなのか~

>limeさん
こんばんは!
読了ありがとうございます^^

そうなんです、バッドエンドなんですよ~……(バッドエンド以外は認めない!紅葉に彼氏なんてまだ早いわっ!w)
タイトルが既にオチなので、「二人はどうなっちゃうの!?」的ドキドキに欠けますが、紅葉の頑張りを見守っていただけたらと思います♪
この現象に対してはあかりも微妙に活躍する予定です!

(茶釜出ましたね!もう出てこないんですが……確かに、ペットとしての地位を確立させてしまえば毎回…w)

URL | 夢月亭清修 #-
2016/06/29 23:22 | edit

わ!茶釜ちゃんが出てるヽ(=´▽`=)ノ 嬉しいです(>ω<)
私も飼いたい(*´ω`*)茶釜ちゃんかわいいー!もふもふしたい♡
もうこれは動物妖怪集めて「もけもけアイドルグループ」作るしかないですね!もちろん茶釜ちゃんはセンターです。(なんの話だ

アニメ、私もよく見ます♪ アニメ放送は深夜帯ですよね。録画して見るようにしてます。
ゲームにアニメ。あかりちゃんと趣味が合う気がします!(強引)仲良くなれそうです(´∀`*)ウフフ

そして、伊藤くん…大丈夫でしょうか…。
宮内さん一体なにを((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル 

プロローグからすると紅葉ちゃんは失恋しちゃうんですね(´・ω・`)
でも、初恋はうまくいかないほうがいいって聞きますし!
ほら、失恋した女の子は綺麗になるって言うし!(言ったかな;

続き楽しみにしてます(^^)

URL | たおる #-
2016/06/29 23:38 | edit

Re: タイトルなし

>たおるさん
こんばんは!
読了ありがとうございます^^
茶釜ちゃん出ましたよ~(話題の中でだけっwこの後は出ませぬ……^^;)
「もけもけアイドルグループ」!?
前に狐と狸と犬が「けもけも」歌って踊るアニメのOPを見たことがありますが…あんな感じかなぁ。笑
だとすると茶釜ちゃんもイケメンに変身せねばっ!w

あ、きっと趣味合うと思いますよ~♪
そちらのブログでアニメ談義することがあれば是非あかりを呼んであげて下さい。笑
紅葉が付き合ってくれないので超喜ぶと思います!

さてさて、新キャラの宮内さんと伊藤君には注目です。
この二人も紅葉の失恋に関わってきますゆえ~。

>ほら、失恋した女の子は綺麗になるって言うし!(言ったかな;

言う!言う気がします!
果たしてこの失恋で紅葉が綺麗になるかならないか……ふふふ…

URL | 夢月亭清修 #-
2016/06/30 00:19 | edit

こんにちは。
連載、とうとう始まりましたね!

なるほど、皆さん仰られてましたがこの恋は成就しないのですか……><
とはいえ、その課程がきっと紅葉ちゃんにとっても
大事だったと思うのででこれからじっくり追わせていただきますね^^

宮内さんと伊藤君も失恋に関わってくるということで
気になりますが、文脈的にすごく振り回される感じ……なのかなあ?
「妖・密事」読了後とあって、なんだか紅葉ちゃんのこの感じが
初々しいなあと改めて(笑)

URL | canaria #-
2016/07/01 20:22 | edit

Re: タイトルなし

>canariaさん
こんばんは^^
やっと始まりました。笑

そう、大事なのは過程です!だってオチは見えてるんだもの!w
この変わった体質の高校一年生がどんな経験をするのか、見守っていただけたら幸いです。

宮内さんと伊藤君は実はけっこう脇役なのですが、そこそこ直接的に紅葉の経験に絡んできますよ~♪

「妖・密事」とは文章が全然違いますが、ちょっぴり通じる雰囲気も……(いや、ないか…wエロくないし…)
ちょこちょこ更新しますのでまた遊びに来てくださいね♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/01 21:44 | edit

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