夢月亭~下手の横好き~

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小説:朱鷺端境抄(ときはざかいしょう) 『芒の海のナロニック号にて≪手記≫』  

    朱鷺端境抄        夢月亭清修


『私は朱鷺――元は人、今も姿形こそ人の女なれど、その本質は定かならぬ。
 今ではないいつか、此処ではない何処かにて、石を拾って成り果てたが今の私と言うモノで――世界と世界の端境を歩み、ただ歩んで進むだけの女、それが私。その在り様に意味も、目的さえも見出せぬまま歩き続けている。
 嗚呼、いったいどれ程の世界を歩いたことだろう――。
 私をこのような存在へと変えてしまった石は、今も我が懐にて孵らぬ卵の如し。黒く艶光り、妙に人工物のようでいてさに非ず。
 この石、ぬらりの翁の星の丘に降る隕石とのこと。私は今、石と共鳴し道を指し示す、夢渓羅針銅の導きを得たり――』


   『芒の海のナロニック号にて《手記》』

 人ならざるモノが営み、人ならざるモノ同士の縁を結ぶ――私にとって、朱松骨董品店は言うなればそのような店でした。
 私はそこで夢渓羅針銅と出会い、《ぬらりの翁の星の丘に降る隕石》と共鳴するそれの導きを得て、しばらくは現世を旅してきました。
 長い間異界を渡り歩いてきた私にとって、現世は数多の未知で溢れかえる場所――刺激的であった、と言うのが最も的を得た表現のように思います。私はこの現世の旅から様々な物事を学びました。
 例えば発達した文明の在り様や、様々な国の存在、そしてその歴史など――これらの多くは書物を通して学びました。
 またある時は、書物からでは決して学びえない文化にも触れました。例えば富士樹海に隠れ住む山窩(さんか)など、彼等の内側には妖魔の血がいくらか混じってあり、特異な能力を持つ人々が寝食を共にしていました。
 他にも、敢えて現世に居座って人のように、又は獣のように活動する妖魔達にも出会いました。(例を挙げると飛縁魔、分福茶釜などです。他にも諸々――)
 夢渓羅針銅と共鳴した為なのか、隕石はこれまでと違い次の端境を示そうとせず、様々な物事と私を結び付けました。まるでその経験と知識が今後役立つとでも言うように――。
 ですから、現世での旅は数年に渡りました。人の道を外れ、時の流れにはずっかり疎くなってしまった私ですから、それが何年だったかと明確に記述することはできません。(おそらく二、三年だと思うのですが…)長いようで早いような――ともあれそのような時間を現世で過ごしたのです。
 そうして、私は今に至ります。
 今は、ようよう導かれた端境を越え、ここは『芒』と呼ばれし海なる異界――一面芒の枯れ色が風に靡く広大な平面世界です。ここで、私はレディ・ウィンセルと、彼女の本体であるナロニック号に出会ったのです。
 ナロニック号は芒を掻いて進む稀な蒸気貨客船――かつては大西洋を渡る船だったのですが、大きな存在を丸ごと神隠しによって『芒』へと飛ばされてしまいました。
 船に乗組員はおらず、船魂であるレディが唯一人、頽廃と惰性を運ぶように運行させています。『芒』は多種多様な端境と密接に関係しており、レディは暇つぶしに、ここを訪れる人や妖魔をその目的の端境へと運んでいるのだそうです。
 ですからナロニック号は現在、私の希望で『ぬらりの翁の星の丘』を目指しているのですが、代替燃料で動くこの船の鈍足は致し方無し――三週間程掛かる見込みとのことで、珍しく私も退屈を感じています。
 今まではこの足で歩いて端境を渡ってきましたから、いよいよと言う所でまさか乗り物を頼るとは思ってもみませんでした。歩いている時には退屈などまるで無縁のモノでしたが、今はこの気持ちの慰めに、こうして言葉を綴っているのです。
 誰に読ませるわけでもないのですが――。

     *

 さて、ここまで世話になった夢渓羅針銅ですが、これはレディ・ウィンセルに献上しました。
 荒れることの無い芒の海を漂うばかりの退屈は、私以上にレディにとっては深刻な悩みのようで――そんな彼女の慰めと言えば専ら性行為なのだそうです。彼女は女性ですが、相手は男女問わず、人も人外も問わず誰でも良いのだとか。この船に滞在する人型であれば昼夜を問わず口説いて回り、駄目なら現在常駐してしまっているアルフレッド・タイラー(彼は人です)に泣き付いている様子。
 私も例に漏れず誘われました。
 彼女に乗せてもらって何の返礼も用意できませんから、私も一度ならば相手をするのも吝かでない――そう思っていました。が――
 私を誘う時のレディの様子がとても気持ち悪くて――きっと私は久しぶりの獲物だったのでしょう。両頬を嬉しそうに朱に染めて、だらしない笑顔からは涎が零れそうな雰囲気でした。まだ何も許していないと言うのに十本の指がわさわさと宙を揉みしだいて、今にも襲ってきそう――。
 最近学んだ現代の日本語で言うなら、『引くわぁ…』という表現がぴったりの私の心境だったのです。
 引いた私は彼女の包容を躱し、夢渓羅針銅を差し出しました。実は、彼女はコレを欲しがっていたのです。と言うのも、この船が何の指標も無い芒の海を渡るのに用いていたのが、夢渓羅針銅とは(レディ曰く)親戚に当たるらしい怪奇物品――『月泉羅針銅(げっせんらしんどう)』です。夢渓と同じく縁を結んで指し示す、というのが謳い文句の道標なのですが、ナロニックの行方を左右するこれが力を失い始めていたのです。
 ぬらりの翁の星の丘も、本来ならもう少し早く辿り着ける場所――しかし力の半減した月泉では「どうしても蛇行してしまう」とレディは出会った当初にぼやいていました。遠からず月泉が完全に力を失ってしまうことを、彼女は心配していたのです。
 ですから私の提案は彼女にとって渡りに船を得ると言うそれ。まぁ、彼女自身船なのですが――。
 ともあれそうして、その時の私は夢渓を生贄にし、彼女の魔手から逃れたのです。(因みに、今でも毎晩誘われるので逃げ続けています。)

     *

 レディ・ウィンセルとナロニック号は新たに夢渓羅針銅の導きを得て、前述の通りぬらりの翁の星の丘を目指しています。
 私は、かの地に至り新たな縁を得るものと想像しており、それを目前とした今、どうにも落ち着かない気分です。
 こんな気持ちになるのは、旅を始めた時以来かと思います。

 ですが――

 私は私を待ち受ける運命に、大いに期待しています。これまでは何の意味も役割も持たずに彷徨い歩いて来ましたから、この先私と言う存在がどう変化してゆくのか――私はそれを、最後まで見てみたい。


『私は朱鷺――元は人、今も姿形こそ人の女なれど、その本質は定かならぬ。
 今ではないいつか、此処ではない何処かにて、石を拾って成り果てたが今の私と言うモノで――世界と世界の端境を歩み、ただ歩んで進むだけの女、それが私。その在り様に意味も、目的さえも見出せぬまま歩き続けている。
 嗚呼、いったいどれ程の世界を歩いたことだろう――。
 私をこのような存在へと変えてしまった石は、今も我が懐にて孵らぬ卵の如し。黒く艶光り、妙に人工物のようでいてさに非ず。
 この石、ぬらりの翁の星の丘に降る隕石とのこと。私は今、星の丘に辿り着く――』

                                     ――了
前回の話→朱鷺端境抄『朱松骨董品店』  次回の話→朱鷺端境抄『ぬらりの翁の星の丘』


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『朱鷺端境抄』は幻創文庫で連載中の官能小説、『妖・密事シリーズ』の外伝的な、割と中身の無いお話です。

今回朱鷺が訪れた『芒』という海――異界観や登場人物は『妖・密事シリーズ』からそのまま受け継がれており、作者本人は「またレディ・ウィンセルが書けた!」という超個人的な満足感でいっぱいです。

レディはスケベなギャグ要員……まだまだ、どこかで書きたいなぁと思っています。

『芒』とレディ・ウィンセルの活躍する本編はこちら↓
芒の海前編  芒の海中編  芒の海後編

Posted on 2016/05/26 Thu. 20:26 [edit]

category: 小説:朱鷺端境抄

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説 
tb: --   cm: 2

コメント

こんばんは(。・ω・)ノ゙

ウィンセルさん…相変わらず見境無く…(笑)
しかしまあ、何の変化もない海(?)をずっとウロウロしてるのも確かに退屈でしょうね。
退屈しのぎに釣り糸垂れたら何か得体の知れないものが釣れそうな気もしますけど。
あ、そういえばR18小説の方もコメ入れさせてもらってませんがしっかり読ませて貰ってますよ~。
広げた風呂敷wをどう収拾されるのか…お手並み拝見です(ΦωΦ)フフフ…
…ちょっと意地悪かな(笑)


URL | いぬふりゃ☆ #-
2016/05/26 20:48 | edit

Re: タイトルなし

>いぬふりゃ☆さん
こんばんは!
レディはきっと暇すぎるのと好きすぎるので頭がオカシクなってしまったんだと思います。笑
確かに、釣りを勧めて冷静さを取り戻してほしい気もしますね^^

密事シリーズ、読んでいただけて感謝です!
こちらはエンディングに向けて突っ走っていますので、風呂敷もばっちり包んでみせますよ!
(包み方は………ちょっと荒いかもしれませんが…笑)

URL | 夢月亭清修 #-
2016/05/26 21:24 | edit

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