夢月亭~下手の横好き~

夢月亭清修の小説&バス釣りブログ♪小説の更新情報・小説・釣行記録・その他諸々掲載してます★

小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の相棒』 No.10  

   小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の相棒』 No.10



「いってきまーす…」
『いってきまーす!』
 二つ重なった声は、私のお母さんには唯一つのそれ。返す「いってらっしゃい」の声も勿論私に向けられたもの。ですが自分にも返事が貰えているようだと感じるのか、あかりちゃんは嬉しそうです。
 そして、元気いっぱいなのです。
『紅葉、今日も学校楽しみだね!』
「そう? 私眠いんだけど…」
『もう、夜更かしするからだよ』
「………」
 夜更かししていたのは私ではなく、あかりちゃんの方なのに……と思いながら、私は軽く彼女を睨みました。
 時代を跨いで家に帰るという経験をした彼女は、今じゃすっかりテレビゲーム好きです。家にある見慣れない機器には興味津々で、中でも強く興味を示したのがそれ。試しに一緒にプレイしてみたところ、これが見事にハマってしまいまして…。
 だから昨晩も、あかりちゃんは徹夜でテレビ画面に噛り付き、私は画面の明かりやら音声で寝付くことができず――だったのです。なのにこのテンションの違いは何なのでしょう? 幽霊は疲れ知らずなのでしょうか?
 さらに、それだけではありません。ここ数日のあかりちゃんのテンションは、夜になるたびハイなのです。まるでどこかの修学旅行の夜さながらで、枕を投げたり、削り取った木片の中から眠りの際で話し掛けてきたりと、私の日常をエンジョイしまくっています。
 おかげさまで私はすっかり寝不足に……。
『紅葉! 桜綺麗だよ! ほらほら! もうすっかり春なんだね!』
「うん…」
 私の通学路だってすっかり覚えた彼女は、ふわふわ浮きあがりながら私の前を進んで行きます。確かに見上げれば、満開の桜は目の覚めるような美しさで――その時でした。
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』
 前をゆくあかりちゃんから叫び声が上がったのです。見れば彼女の前には行く手を遮る異形の黒き姿――そう、塊がいたのです。私はハッとしました。
「あ……ここって……」
 振り返って見れば、そこにはすっかり通り越してしまった南十字が……。
 何となくあかりちゃんに付いて行って、何となく桜を見上げている隙に通り過ぎてしまったみたいです。
 嗚呼、またやってしまいました…。私はあかりちゃんの手を取って走り出します。駅とは真逆の方向へ――です。
『紅葉! あれ何!』
「捕まっちゃ駄目なヤツ!」
 あかりちゃんも地に降りて走りはじめます。そのスピードは私といい勝負で、どうやら、あかりちゃんも運動は苦手だったみたいです。
 私が振り向いて塊の位置を確認すると、まだ距離は開けていません。いいえ、なんだか塊は、いつもより動きが速い気がします。なんだかこう、いつもより頑張っている……ような?
 まさか――
「大好物がたくさん! ってことなの!?」
『何? 何か言った!?』
「もうっ! もう知らない! あかりちゃんのバカ!」
 寝不足なんてまるで言い訳にできない逃走劇が始まってしまいました。果たして私たち、今日は無事に登校できるのでしょうか?
 まるでここ数日の疲れにトドメを刺しに来たかのこの出来事の最中、私の心にはちょっぴりの後悔が芽生えています。嗚呼、私、早まったのかな――なんて。
 そんな私の心なんて露知らずのあかりちゃんは、走りながら笑い出しました。
『あははっ! こういうのも楽しいかも!』
「全然楽しくないっ!」
 笑顔の幽霊と泣き顔の私は、住宅街を全力で駆け抜けます。嗚呼、まったく、これから先の高校生活が思いやられるようで、私のこの気持ちを言葉にするなら「ちくしょう」――なんだと思います。それでもやっぱり、あかりちゃんは能天気なもので――
『紅葉といると楽しいことばっかりだね! 私、紅葉がだーいすき!』
 なんて、走りながら言っています。
「そんな場合じゃないんだってばーーっ!」
 走って、走って、離れがたい私達はどこへ向かっているのでしょう? 青天の空はどこまでも高く、視界は揺れども明朗なり。
 私達の高校生活は、まだ、始まったばかりです。

 以上が紅葉怪奇譚の第一話、紅葉の相棒――でした。拙い語り部で大変申し訳ありませんでしたが、皆様、お楽しみいただけたでしょうか? あかりちゃんと出会い、私、柿川紅葉の青春は幕を開けます。いわゆる序章、とでも言いましょうか、どうぞ今後とも御贔屓に。ではでは、案内人は私、柿川紅葉でした。ごきげんよう。

     *

 幕を下ろした後に登場するのは気が引けるが――初めまして、野良猫達のマスターこと、緑ヶ丘誠です。
 いやいや、拙いにも程がある、と言うものさ。なんたってこの物語には穴が多すぎるな。だから少しだけ補足と言うか、後日譚というか、俺がちょっぴり出しゃばろうと思う。過保護だなんて言わないでくれよ?
 これは紅葉とあかりが一緒に過ごすようになって暫くしてからの、俺と柳田の会話なんだが――柳田、分かるか? 紅葉の担任の柳田道子さ。
 あいつが俺と同じ二十七歳だって気付いていたかい? そう、同級生なのさ、向稜高校のな。三年間同じクラスだった。つまりあいつも旧校舎に一年間いたわけ、一年D組の生徒として。しかもだ、あいつ、霊感があるんだよ。俺や紅葉のようにはっきりと見えるわけじゃないんだが……あいつはあかりのことを白い靄のような――とそう知覚していたらしい。その靄と会話しているところを見られちまったのが、俺とあいつの縁の始まりだった。
 まあその辺の下りはまた別の話であるからして、ここでは割愛しよう。
 紅葉とあかりが仲良くなって数日してから、俺はあいつに電話を掛けた。礼が言いたくってな。晩の営業の後だったから、もう寝ているかとも思ったけれど、きっちり二回のコール音の後で明朗な声が返ってきた。「はい、柳田です」ってな。
「よ、元気か?」
「なんだよ、こんな夜中に」
「ありがとな、柳田」
「ん? ああ、柿川のことか」
「そう、ちゃんとアドバイスしてくれたみたいじゃないか」
「まぁな。意味不明だから、妙に恥ずかしかったぞ。なんだよ、触れてみろって」
「ははっ、まぁそう言うなって。結構大事なことだったんだ。それに、俺が言っても聞かないことだってあるしな」
「ふぅん、それは今柿川に纏わり付いている白い靄と関係があるのか?」
「ああ」
「いいのか? 憑り付かれるっていうのは、あんな状態のことなんだろう?」
「いいんだよ。まぁ正確に言うなら、憑り付かれるって状態とはちょっと違う」
「?」
「旧校舎にいた地縛霊は、城内あかりは、紅葉の持つ憑代に憑いている」
「憑代?」
「旧校舎の床板、ちょっと失敬したみたいだぜ?」
 ここで柳田は溜息を吐いた。どうやら床に新しくできた凹みに躓きかけたらしい。
「それであんな妙な削り傷ができていたのか……まぁもう取り壊しも始まっているし、別にいいけどさ。しかし、地縛霊を憑代に移すなんて、できることなのか?」
「いいや、紅葉ならでは――だな。あいつはちょっと特別なんだよ」
「へぇ。そんな風には見えないけど…」
「しかしまぁ、あの旧校舎がついに――か」
「なんだ? 寂しいのか?」
「ちょっとだけ、な。色々と思い出もあるし、お前だってそうだろう?」
「……まぁ、な」
「最後に見に行けば良かったと思ってる」
「……それには及ばないさ。お前が御執心の柿川が、あの白い靄と一緒に眺めていたよ。ほんの一週間ちょっといただけの建物だってのに、随分と寂しそうな背中だった」
「……そうか。ははっ」
「なんで笑うんだ?」
「ん? なんでかな。紅葉らしいって思ってさ」
 その背中に現れていたのは、たぶん、紅葉本人の寂しさではないと思ったんだ。あかりの寂しさに、きっと共感していたんだと思う。あいつはそういう子だ。そういう、心の通う子なんだ。
「そういえば、柿川が授業中に妙なツッコミを決めていたんだが、何か知ってるか?」
 そこで俺は大笑いしたね。俺にとっては今回の話の一番面白いところさ。
「なんだよ、笑ってないで教えろよ」
「あかりが踊ったらしい」
「なにを?」
「でもそんなの関係ねぇ! って」
「ああ、それで小島ね」
「いや実はさ、最近流行の芸人ってヤツを俺が教えたのさ。在学中にな」
「へぇ。そりゃ柿川もいい迷惑だ。顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた」
「ああ。目に浮かぶようだ」
「相変わらず、嫌な奴なんだな、お前は」
「言うなって」
 それから俺達は適当に雑談した。どこそこの店屋物が美味いとか、俺の店の話とか、あとは昔の思い出話しとか。で、良い時間だしそろそろ長電話も頃合いかなって折に、柳田が言ったんだ。「ありがとな――」って。
「なんでお前が礼を言うんだよ?」
「いや……なんとなく、な」
 あいつはこういう理由を細かく説明するようなヤツじゃない。でも、俺にもなんとなく分かったんだ。たぶん、本当に礼を言いたい相手は俺じゃない。紅葉さ。紅葉の寂しそうな背中が、嬉しかったのさ。
 俺達にとっては思い出ある旧校舎だから、やっぱり無くなるのは寂しいってもんさ。でも、今在学している生徒は喜ぶもんだろう? 綺麗な教室に行ける――って。
 教師は生徒と同じ立場にはなれない。でも、心の中には共感して欲しいことだってたくさんある。思い出深い事なら尚更だ。だから、嬉しかった――。
「お前も相変わらず、素直じゃないんだな」
「……ほっとけよ」
「じゃあな。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
 まぁ紅葉のいない所でこんな電話のやり取りがあったわけなんだが、補足後日譚もこんなものかな? 
 さて、紅葉怪奇譚第一話、これにて今度こそ閉幕だ。じゃあな、また会おうぜ。

                                        ≪――一旦閉幕≫
前話→『紅葉の相棒』 No.9  最初から読む→『紅葉の相棒』 No.1

――閉幕歌(2016.04.21書き下ろし)――

 快晴歩む子らに歓声を

 完成は遠く

 語り部は反省を


にほんブログ村

Posted on 2016/04/21 Thu. 01:12 [edit]

category: 小説:紅葉怪奇譚Ⅰ

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説 
tb: --   cm: 10

コメント

深夜にコンバンハ(。・ω・)ノ゙

今回でこのお話は終了ですか。文字通り1から10まで全部読ませて頂きました~。
これは一応ハッピーエンドと受け取って良いんですね???
取り方によっては今後さらにまた新たな展開でドタバタしそうな予感がするんですけど…(笑)
しかしあの木片(木屑?)の使い方はやはり…(。-∀-)
それにしても幽霊がテレビゲームにハマるというのは面白いですね。

URL | いぬふりゃ☆ #-
2016/04/21 01:46 | edit

Re: タイトルなし

>いぬふりゃ☆さん
こんにちは!
読了ありがとうございました^^
こちら一応ハッピーエンドだと思います。が仰る通り続きがありまして…笑
そのうち更新しようと思っております。

あかりは子供なんで、ひょっとしたら今後色々なものにどっぷりハマっていくかもしれませんね。笑

URL | 夢月亭清修 #-
2016/04/21 15:01 | edit

ちょっとドタバタしている間に完結していたΣ(゚Д゚)
急いで全部読みましたー。

あかりちゃんと紅葉ちゃん仲良くなってよかったです(^^)
そしてマスター!まさかの昔の仲良しさんだったとは(笑)しかも小島よしお教えたのもお前かー(笑)しかも学校の先生と同級生とは!色々繋がっているんですね。

あかりちゃんをどうやって学校から連れ出すことが出来たのかと思ったら教室の床板に乗り移らせた(?)んですね。それで爪とぎをみて気がついたのか。なるほどー。

毎日楽しそうで良かったです(^^)
まだお話は続くのかな??
今度は分福茶釜さんももっと登場してほしいなあああああああ(おい
茶釜さんを落書きしてみようかと思ったんですが、なかなか可愛さが描けません(´ε`;)ウーン…

またお話楽しみにしてます(^^)

URL | たおる #-
2016/04/21 21:40 | edit

Re: タイトルなし

>たおるさん
こんにちは!読了ありがとうございます^^

そうなんですよー、いろいろ繋がりがあり過ぎて「もっとてっとり早く解決できたんじゃ…」と自分でも思いますw
でも、どうも「紅葉ならでは」とのこと……憑代に移すなんてチート感ありますが、ストーリーには誠の思惑もあった様子です。笑

宗次郎さん、いい仕事しましたね。
宗次朗さんはいつもいい仕事します。なぜかそういう役割です。

お話は続きますよ~♪
分福ちゃんの登場はありませんが……(´Д`;)
いろんな作品に登場させている妖怪なのでいずれまた会えると思います^^

うちの子達はお絵かき自由素材です!
たおるさんの描く分福茶釜、とっても見てみたいです~!

URL | 夢月亭清修 #-
2016/04/22 13:36 | edit

楽しかったです

最初は一人で孤独に塊から逃げてた紅葉ちゃんでしたが、こんどからはあかりちゃんが一緒ですね(笑)
ちょっと能天気なあかりちゃんは、紅葉ちゃんの良い友達になりそうですね。この後もずっと一緒にいれたらいいのに。(成仏は!)

そうか、あの木片は憑代。そんなテクニックがあったのですね!メモメモ。
そしてマスターと担任の先生の間で、こんなやり取りがあったとは。
なかなかこのマスター、秘密がいっぱいで、たのしい^^
紅葉ちゃん、守られてるな~。こんな青春もいいですね。

この話には続きがあるのかな?
またゆっくり、聞かせてほしいです^^

URL | lime #GCA3nAmE
2016/04/24 11:41 | edit

Re: 楽しかったです

>limeさん
こんばんは!
読了ありがとうございました^^
あかりは本当に能天気でwいいコンビになると思います。
成仏するところまでは書いてませんので、しばらくは一緒ですね(どうやって成仏させたらいいんだ…w)

憑代っていきなり出て来ちゃったし、紅葉にそんなことできるのか?とか自分でも思いつつ、すべてを語ろうと思ったら相当時間がかかりそうです。
マスターのヒミツもたくさんあり過ぎて……と言うか、書く前に僕が妄想しすぎているのがいけない。笑
守られている紅葉ですが、そんな彼女の成長をもっとしっかり描けたらなぁと思っています^^

続編ありますのでまたよろしくお願いします♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/04/24 21:27 | edit

この一週間で大きく成長した紅葉ちゃんの物語、あかりちゃんとの出逢いの物語、堪能させていただきました。
ホラーかと思いきや、青春・友情カテ?というくらいにさわやかなお話でしたね。
サポートする周りが小憎らしいほどに上手いですね。大人だあ。

色々なことが明らかになったけれど、まだまだ明かされていない秘密もたくさんあって、夢月亭清修さんの裏設定ノートをチラ見させていただきたい気分ですが我慢します。
続編で、紅葉ちゃんあかりちゃんのコンビ、マスターの秘密などがまた展開されるのを楽しみにしています。

URL | けい #-
2016/05/12 19:00 | edit

Re: タイトルなし

>けいさん
こんばんは!読了本当にありがとうございましたヾ(・ω・。`)
おっしゃるとおり僕自身青春・友情カテだと思います。
そして紅葉の青春はなんだかんだで周りの大人たちに守れれていますね。
そんな中で紅葉自身が大人になっていく姿をこれからも書けたらいいなぁと思います^^

裏設定が書ききれるように頑張ります!
第ニ話目はそこまで開示される感じでもないんですが…^^;
とりあえず、コンビプレーをご覧になっていただけたらなぁと思います。

一日一話と言うハイペースで読んでいただけて嬉しかった!
またお時間ありましたらよろしくお願いします♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/05/13 00:43 | edit

読了しました!

とーっても面白かったです……!!
読後に爽やかな風が吹き渡るような素敵なお話でした……!

卒業生まさかのマスターだったとはっ
紅葉ちゃんの関係者かな〜とはうっすら思っていたのですが
先入観で女の子だと思ってたんですよね。
まさかのマスターだったとは……
マスター、粋すぎます‥‥!

いろいろ符号も繋がりましたね
柳田先生の「触れてみろ」の助言、実は
主役級の人物が言いそうな深いせりふだな〜ってひっかかって
たんです。マスターの言伝だったんですね、道理で
紅葉ちゃんの核心をつくようなアドバイスだったんですね^^

次はどのお話に進めばよろしいでしょうか?^^
時系列的にこれがおすすめというのがあったら教えていただけると
嬉しいです!
素敵なお話をありがとうございました(*^-^)

URL | canaria #-
2016/05/26 20:11 | edit

Re: 読了しました!

>canariaさん
こんばんは!読了ありがとうございました♪
楽しんでいただけたみたいでとっても嬉しいです^^

そう、実はマスターだったんですよ~。
あかりのセリフだと『もう卒業しちゃったけど……昔はいたもん! 私とお喋りしてくれる子、一人いたもん!』だったので女の子を想像しちゃいますよね。笑
意識して書いたわけではないのですが、これは儲けもんw

柳田先生は脇役ですが、主要人物と交流があって、おまけに霊感もあります。
本当はもっと掘り下げてもいいのかな~と最近思いました。(予定は未定ですがw)

次は……う~ん……内容も世界観もまったく違うのですが、幻創文庫で書いている『不思議なオカルト研究部シリーズ』には紅葉怪奇譚に登場したマスターの妹、緑ヶ丘翠が登場します。
こちらお時間よろしい時に是非^^
それと紅葉怪奇譚の二本目を来月末くらいからまた連載する予定です!是非また遊びに来てください♪
こちらも『千年相姦』の更新楽しみにしています^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/05/26 21:18 | edit

コメントの投稿

Secret

FC2カウンター

プロフィール

カテゴリ

Twitter

最新記事

月別アーカイブ

最新コメント

ブログ村ランキング(小説)

メールフォーム

検索フォーム

RSSリンクの表示

リンク

ブロとも申請フォーム

QRコード