夢月亭~下手の横好き~

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小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の相棒』 No.8  

   小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の相棒』 No.8



 休日の土曜日、私はアルバイトまでの暇な時間を持て余して、近くの公園でブランコに揺られていました。この公園は昔からマスターと会っていた公園で馴染み深く、このブランコは私の友達とも言える程良く乗っていた指定席。考え事をするには最適で、高校生にもなって未だにお世話になること頻繁なコイツです。乗るときは「いつも溜息ばかり聞かせてごめんね」と、心の中で謝るのが欠かせません。
 そのブランコに揺られて、やっぱり頭の中は彼女、前髪さん、城内あかりのことでいっぱいでした。昨日の放課後は結局何も話せないまま帰ってきてしまったので、来週には、教室が移動になる木曜日までには話さなくちゃと、でも、取り敢えず謝らなくちゃ――どう謝ろうか、なんて、思考はぐるぐる、答えの出ないまま堂々巡りで……。
 人とのコミュニケーションが苦手なのは知っていましたが、まさか怪異とのコミュニケーションまで苦手だなんて、思ってもみませんでした。まぁ逃げるばっかりだったから当然ですけれど……。
 何度目かの溜息を吐いたとき、足元でにゃぁと鳴く声がしました。見ると宗次郎さんがいつもと変わらぬ凛々しさでじっと私の顔を覗いています。また慰めに来てくれたのでしょうか? 真意は分かりませんが、ちょっぴり嬉しくて、私は微笑みました。
「おいで、宗次郎さん」
 そう言うと宗次郎さんは私の膝に一っ跳び、大きな体がくるんと丸まって、ふわふわしたボールのように落ちてきました。
「ぐっ……」
 宗次郎さん、見た目そのままに重いのでお腹に響きます。でもやっぱり、その重みも、こんな時には何だか嬉しいのです。私はその背中をさらさらと撫でました。
「さすが宗次郎さんだな」
 その声と大きな影が後ろから私を包んだのはほぼ同時です。振り返らなくったって誰か分かります。
「紅葉が落ち込んだとき、真っ先に駆けつけるのが宗次郎さんだ。俺はいっつも二番目って決まってる」
 そう言って笑ったマスターは、いつかみたいに私の背中を押しました。宗次郎さんが落ちない程度に軽く揺れたブランコは、ほんのり頬に風を感じさせます。
「ねぇマスター、あの子にはさ、こんな風に優しくしてくれる人、いなかったのかな?」
「いただろ、両親とか」
「両親なら私にだっているよ。それ以外に」
「さぁ、それは分からないな」
「…そうだよね」
 そうして私は、マスターにぽつぽつと、少しずつ全てを話しました。
 彼女が怖くなくなったこと。
 彼女が寂しがっていること。
 まるで私みたいだということ。
 生きていた頃の彼女を視たこと。
 彼女を傷つけてしまったこと。
 旧校舎が無くなってしまうこと。
 全てを話しました。
「ねぇマスター、旧校舎が無くなったら、あの子、どうなっちゃうのかな………」
「……野晒さ。あの場所で、雨の日も、風の日も…」
「それって、すっごく辛いよね…」
「そうだな。でも、それだけじゃない」
 私は振り返ってマスターの顔を見ました。マスターは真剣な顔をしていて、次に紡がれる言葉に不穏な空気が漂うだろうことは簡単に想像が付きます。私は怖くなって、でも、知らなくちゃと思いました。
「……どうなっちゃうの?」
「取り込まれるだろうな。建物や壁ってのは一種の結界みたいなモノだから、それが無くなったら、取り込まれる」
 その言葉に、私はハッとさせられました。彼女のような存在を取り込んでしまう怪異を、私は知っているのです。
「…塊」
 マスターは無言で頷きます。そして次なる私の疑問を見透かしたように言ったのです。
「取り込まれちまったら先は無い。成仏も、生まれ変わりも、無い」
 私は反論しようとしました。本当にそうなの? って。でも、それはきっと事実なのです。塊の動きが遅いのは色々な思念が混ざり合った結果ですから、おそらく思念は、ずっとあの黒い異形の中に留まってしまうのでしょう。そして霊は、ある思念の塊そのものなのです。
「どうしよう! あの子が……」
 遂に涙ぐむ私の顔に、それでもマスターは微笑みました。
「大丈夫だ」
「でも、だって……」
「あいつに優しくしてやれる人間なら、ここにいるじゃないか」
「そんな人、どこに――」
「ここだよ、ここ」
 そう言ってマスターは、ポンと私の肩に掌を乗せたのです。
「…え――わた、し?」
 マスターは大きく頷きます。
「そうさ、あいつの気持ちは、お前が一番解ってやれる――そうだろう? 紅葉」
「でも…」
 その時です。ブランコから少し離れた松の木から、カリカリ何かを削る音が聞こえてきました。見れば宗次郎さんがいつの間にか私の膝から離れ、木の幹で爪を研いでいたのです。
 カリカリカリ、カリカリカリ――体の大きな宗次郎さんの爪はやはり大きくて、とっても大きな音を鳴らしています。そして――
 ガリッ――!
 一際大きな音が鳴ったかと思うと、宗次郎さん、随分力を入れて研いでいたのでしょう、幹から石ころのような木片を落としてしまいました。それを見て、私の中に閃くモノが――
「マスター……」
「なんだ?」
 もう一度、マスターの顔を仰ぎ見ます。私の顔は、もう涙に曇ってはいません。
「私、やってみるよ。できるかどうか分からないけど…、やってみる」
 マスターも真っ直ぐに私の顔を見て言いました。
「ああ、頑張れ!」

     *

 日曜日を過ごし、月曜日。放課後は相変わらずの晴天が辺りを橙色に染め上げて、私は渡り廊下からその景色を眺めています。グラウンドや体育館から聞こえる快活な声は羨望と嫉妬を私の心に植え付けて、これが彼女の心象風景ではないかと、そんな錯覚か共感さえ覚えました。
 さぁ、もう教室には彼女しか残っていない時間帯です。私は大股に歩いてその教室を目指します。もう迷いはありません。思い切って、やってやるのみです。
 教室の扉を開けば、やっぱり教室には彼女のみ。またあの寂しそうな背中が私の目に飛び込んで来ます。私はその背中に向かって全力で飛び込みました。
 タタタッ――と、床板を踏む音が急激に近づいて来たことに吃驚したのでしょう。彼女は振り向くなり仰天して背中を窓に押し付けるくらい後退りました。
『え? え?』
 彼女が戸惑うのは無理もありませんが、私は構うものかの疾走で彼女に飛びついたのです。いえ、彼女の足元に、です。そんな私の右手に握られていた物を見て、彼女は恐怖で飛び上がりました。
『ぎゃあああああああああああああああ!』
 ズカッ――と、それは床に突き刺さる彫刻刀。中学時代に使った物を、今日は鞄に忍ばせていたのです。彫刻刀の先は宙に浮いた彼女の真下に突き刺さり、床板から木片を剥ぎ取ります。木片はカツンと音を立てて転がりました。
『あ、あ、危ないじゃないかぁぁぁぁ! そんな物振り回して、刺さったらどうするんだよ! ひっ!』
 幽霊と言えど刃物は怖いと見えて、木片を握りしめて立ち上がった私をまるで暴漢でも見るような目で見た彼女は、涙ぐんで浮いたままでも後退ります。お尻が窓を破ってしまいそうな程。
『や、やめて! 乱暴しないで! この前は私が悪かったよぅ……もう話し掛けないって約束するから……』
「城内、あかりちゃん……」
 彼女の誤解を今は敢えて無視し、私は呼びかけました。怖がる彼女に木片を見せて、ありったけの勇気を振り絞ります。
 いいえ、本当に勇気が必要だったのは彫刻刀を振り翳した瞬間だけ、こうしていざ口にしてみれば、なんてことはありませんでした。むしろ、どうして最初からこうしなかったんだろうと、今更ながら思っただけです。
 でも、決意は滲む程に込めたつもりです。それは彼女に対する同情や、哀れみから来る決意ではありません。私は、彼女の保護者になるつもりなんてありませんから。
 この決意は自分自身に対する決意――これを切欠に、私は変わるんだ、私だって変われるんだ――そう願っての決意です。
 彼女にそれが伝わったかどうかは解りませんが、この後彼女が私に見せたポカンとした表情が何とも言えず面白かったと言うのは、ここだけの話。固まった彼女の前髪を掻き上げて、私、ちゃんと確認しましたから。
 その表情まで五秒前です。
 じゃあ、言いますね?
 せーの――

「あかりちゃん、私と友達になろう!」

 こんなことを口にして友達を作る人、普通はいませよね?

                                   ≪――続く≫
前話→『紅葉の相棒』 No.7   次話→『紅葉の相棒』 No.9


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Posted on 2016/04/14 Thu. 20:59 [edit]

category: 小説:紅葉怪奇譚Ⅰ

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説 
tb: --   cm: 10

コメント

こむばむは(。・ω・)ノ゙

木片…何に使うのでしょうか…?
校舎の一部だったから、それに城内さんの魂を込めるとか??まぁ判りませんが…(。-∀-)
しかし幽霊なのに刃物にビビるとは(笑)
体は死んでいても魂はまだ生きている時と同じで、その時の感覚をずっと持ち続けているんでしょうかね。

URL | いぬふりゃ☆ #-
2016/04/14 21:27 | edit

Re: タイトルなし

>いぬふりゃ☆さん
こんばんは!
木片に関しては最後の方で触れますので、もう少しだけお付き合いいただけたら幸いです^^
あかり、幽霊とはいえ意識はまんま高校生なので……笑
おっしゃる通り生きていた時の感覚はそのまま残っているのかもしれません^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/04/15 22:56 | edit

旧校舎の取り壊し。
紅葉ちゃんの苦悩。
どうなっちゃうのかとおもったら、紅葉ちゃんいきなりのタックル!!
……と思いきや、壁の木片を?
木の使い道はきっとあとから語られると思いますが、いまは紅葉ちゃんの交際宣言(?)に、拍手です^^

URL | lime #GCA3nAmE
2016/04/16 12:58 | edit

こんにちは!

また作品の続きが読めて嬉しいです~!

あ、リンクの申し込みありがとうございます~!
早速、私はリンクさせてもらいました(笑)

しばらく更新が途絶えたりするかもですが、宜しくお願いします!

URL | みろり #-
2016/04/16 14:55 | edit

Re: タイトルなし

>limeさん
こんばんは!
中盤から少しお話が走ったというか、展開が急だったかなぁ……と、読み直してちょっぴり反省中です(´皿`;)
紅葉のセリフも少し気恥ずかしいような……でも、拍手いただけて嬉しいです^^
紅葉的には相当頑張ったはずなので。笑
『紅葉の相棒』はあと二回くらいで終了です。
後日談的に伏線を回収していきますので、是非また遊びに来てください♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/04/16 21:49 | edit

Re: タイトルなし

>みろりさん
こんばんは!
ありがとうございます^^読んでもらえてうれしいです♪
そしてリンクもありがとうございます!
こちらでもリンク完了いたしました!
また遊びに行きますね^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/04/16 21:51 | edit

コイツは紅葉ちゃんの色々を見てきたヤツなのですね。なんかしみじみ。
宗次郎さんが一番で、マスターがいっつも二番の図、良いですね。
宗次郎さんの行動がいちいちニクイっすねえ^^

うおお。これはあかりちゃんもびっくり(ぽん)?
紅葉ちゃんとしては、精いっぱいの告白(?)
そして紅葉ちゃん自身が変わることへの決意(?)
いろいろが動く気配ですね。

全然関係ないけど、カウンター13131というシマシマ模様みたいなナンバー、ヒットしてなんかニマニマしてます(^^;)

URL | けい #-
2016/05/10 18:48 | edit

Re: タイトルなし

>けいさん
こんばんは!
公園の遊具ってなんだかんだで想い出ありますよねぇ…紅葉の場合は(現在進行形でw)ブランコのようです。
宗次朗さん、酒は飲むしいつも居るしで謎ばっかりですが、紅葉のことは大事に思っているみたい^^
マスターが一番の時もやってくるといいなぁと思います。

いやぁ…急展開なのですが、このお話が割と動き終わっちゃってて…w
残りの二話は答えアワセみたいな内容になってます^^;

おっ、シマウマHITおめでとうございます^^
そんなあなたには――えっと…………特にございません。笑(いつも来て下さって感謝!ありがとうございます!)

URL | 夢月亭清修 #-
2016/05/11 00:30 | edit

おお、最初で出てきた塊の脅威が、まさにあかりちゃんに
迫ろうとしているのですね。

これまでどちらかというと受け身だったように見える
紅葉ちゃんですが、今回かなり自発的な行動に出ましたね!
この大きな一歩がどんな結末を生むのか、木片の行方と
ともに見守らせていただきたく思います。
そして宗次郎さんがいい味出してて……モフモフが文字の間から
伝わってくるようでした(*´ω`)

URL | canaria #-
2016/05/22 19:59 | edit

Re: タイトルなし

>canariaさん
こんばんは!8話目の読了ありがとうございます^^
塊………何気に出番の多いやつです。笑

ちょっぴり頑張った紅葉にどんな明日が訪れるのか――残り二話は後日談的な中身になります。

宗次朗さん、謎の多い猫ですが皆様にそこそこ気に入っていただけてるみたいで嬉しいです♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/05/22 21:25 | edit

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