夢月亭~下手の横好き~

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小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の相棒』 No.2  

     紅葉怪奇譚 『紅葉の相棒』 No.2



 塊のような、恐ろしい怪異が素早くないのは不幸中の幸いというものでして、そしてまた、駅とは逆方向に進んだがゆえに祐介さんに会えたのも、これもまた、不幸中の幸いと言えるでしょう。
「あれ? 紅葉ちゃん? どうしてこんなところにいるの?」
 社用車である白いミラの窓ガラスを下げて、祐介さんが私に声を掛けてくれました。彼は配置薬の営業マンさんで、マスターの幼馴染です。幼い頃から私に良くしてくれたマスターの幼馴染ですから、私にとっても顔馴染み。最近ではアルバイトの関係で毎日のように顔を合わせている二十五歳のお兄さんです。たぶん、祐介さんもこれから仕事に向かうところだったのでしょう。
「あ、祐介さん、おはようございます」
 私はハンカチで額の汗を拭いながら答えました。
「おはよ、紅葉ちゃん。この時間にこんなところにいたら、駅発のバスに間に合わないだろう? どうかしたの?」
「あっ…いえ、ちょちょっ、ちょっと、あの、その、寝ぼけてたみたいで…」
 我ながらなんと苦しい言い訳でしょう…。寝ぼけた夢遊病者だって、こんなに家から遠い所までは出歩かないでしょうに…。でも祐介さんは――
「へぇ、まぁ今日はいい天気だもんな。気持ちは分かるよ」と、何やら私の思惑の外で独りごち、頷いてくれました。
 祐介さんは何かと人を疑わない性格をしているのです。優しすぎる人柄、とでも言えば伝わるでしょうか? 優しすぎて、他人に対する目線がやたらとポジティブなのです。だから人から騙されたりしないか、私のような若輩者でも心配になるときがあります。まぁ今は、その優しさに甘えさせて頂きますけれども…。
「乗りなよ紅葉ちゃん。学校まで送ってあげるよ。こんないい日には散歩もしたくなるだろうけど、やっぱり遅刻はいけないからね」
 黒縁眼鏡の中で、祐介さんの瞳がにっこりと笑っていました。その柔和な顔に私も微笑んで、二つ返事で「はい」と答えそうになりましたが、いえいえ、流石にそれはご迷惑でしょう。祐介さんだって、これから出勤しなければいけない身でしょうから。
「い、いえ、大丈夫です。祐介さんだって、これからお仕事ですよね?」
「気にしないでいいよ。もう出社済みなんだ。もう一軒目のお宅を回ってきたところなんだよ」
「え? こんなに朝早くにですか?」
「ん?」
「え?」
 何やら会話にズレを感じた私は、恐る恐る自分の腕時計を覗き込みました。それはアンティーク調の、銅で作られた文字盤の片隅に楓のマークがうっすら彫り込まれている時計。マスターに翠さん、そして祐介さん、三人からの入学祝です。私の年齢よりもずっと大人びた品なのですが、私もいたく気に入っていまして、毎日肌身離さず持ち歩いています。そこには――
「えっ、えええええええええっ!」
 ついつい素っ頓狂な声を上げてしまったのは、私の思っていた以上に時間が経っていたから。とてもじゃありませんが、今からバスに乗るのは不可能です。あの塊を振り切るのに、私はかなりの時間を費やしたことになります。そんな私を、祐介さんは笑顔で促しました。
「はははっ、ほらほら、早く乗った乗った」
「うう…すみません…」
 申し訳なくて、少しだけめそめそしてしまいました。ですが祐介さんの人を疑わないあの調子ですから、走る車内で話し始めると、すぐにこうしているのが当たり前のように思えてくるから不思議です。とにかく祐介さんは、人に気を使わせない達人なのです。
「今日で入学して三日目だよね。どう? 学校は」
「ええ、まぁ…ぼちぼちです」
 大阪の商人じゃあるまいし、の私の煮え切らない受け答えは、それでもその通りです。まだ友達と呼べるようなクラスメイトもいませんが、それでも、中学校や小学校の頃のような変な噂を立てられてはいませんから、全然マシと言うものです。と言うのも私、中学校の頃は影で『塩かけ婆』と呼ばれていました。
 塩かけ婆――それはたぶん、某アニメで有名な妖怪、砂かけ婆をもじっているあだ名なのでしょう。私、塩はよく撒きますから…。
 これはマスターの直伝なのですが、人の形をした幽霊には塩が良く効くのです。ですから今だって、懐には小さめのマチ付きポリ袋に塩を入れて忍ばせてあります。それを盛大に撒きながら道を逃げていて、クラスメイトに目撃されてしまったのです。
 それまでは、話し掛ければどもってしまうような人見知りの、ただの暗いクラスメイトだった私ですが、その件を境に「ひょっとしたらちょっとヤバい奴なんじゃ…」という噂の付き纏う、話し掛けたくないクラスメイトに見事昇格してしまいまして…。
 おかげさまで友達のいない中学時代を無事卒業してしまったわけです。とほほ…
 小学校時代もまぁ似たようなものです。見えないモノを怖がるなんて気味が悪くて当たり前。おまけに話すのも苦手なのですから、ろくに弁解もできないまま、六年間をやり遂せてしまったわけです。
 さてさて、そうして最近高校へと上がった私ですが、今のところ問題なく過ごせています。やはりコミュニケーションはまだまだ苦手ですが、今後クラスの役割分担や委員決め等ありますから、それを切欠に友達を作るぞ! と意気込んではいるのです。ただ…
 ただ一つ、不安要素があります。いえ、自分の性格を考えれば不安要素なんて沢山あるのですが、それとは一線を画す不安――つまりは、怪異絡みの不安要素。
「はやく友達ができるといいね」と、にっこり微笑む祐介さんにこの話はできません。祐介さんは怪異となんら関わりの無い人なのです。仲良しのマスターでさえ、祐介さんに怪異の話なんて一切しないくらいですから。
 おそらくマスターは、祐介さんだけでなく、翠さんにも、いいえ、力の無い人には絶対に話さないのでしょう。きっと、余計な心配を生むだけですから……。
 私にもその気持ちは痛い程に解ります。私だって両親に、そんな話を、こんな悩みを打ち明けたことはありません。そんなことで、大好きな両親を困らせたくはありませんから。
 だから今も、私はその不安を呑みこんで、ぼちぼち、などと曖昧に答えたのです。そう、教室に幽霊がいる――なんて、口が裂けても言えませんでした。
 だから、今晩その幽霊についてマスターに相談してみようかしら、と思案顔の私に、何かしら別の意味で気を使ったのでしょうか? 祐介さんが言いました。

「外灯と言うのはね、人の為に、つけるんだよな。僕はどれだけ、外灯をつけられるだろう――」

「なんです? それ」
 私の頭の上に浮かんだクエスチョンマークに、祐介さんは笑顔で答えます。
「相田みつをの言葉。これ、気に入っているんだ。この言葉を思い出すとね、少しだけ人に優しくなれる気がするんだよ」
「祐介さんは十分優しいじゃないですか」
 私は思ったままそう口に出したのですが、祐介さんは首を横に振りました。
「いいや、まだまださ。それに、これからも沢山の人と出会っていくんだ。いったいいくつのを外灯を灯せるだろうかって、常に自分に問い掛けていくことが大切だよ」
 なるほど、そういうものかと、人付き合いの苦手な私でもその言葉には含蓄を感じました。
 祐介さん、実はこういう素敵な言葉がすらすらと出てくる程の文学好きです。自身も小説家を夢見て仕事をする傍ら執筆しているんだとか。私は祐介さんの書いた小説を読んだことは無いのですが、いつか読んでみたいなと常々思っています。
 嗚呼、私、教室の幽霊のことは忘れてなんだか嬉しくなりました。外灯の言葉はこれまた祐介さんが私の思惑の外で勘違いをして出てきた言葉ですが、こんな言葉を教えてくれる人が傍にいることに、とても嬉しくなったのです。だから、私は尋ねました。
「他に、人間関係に関する格言とか、素敵な言葉はありますか?」
 祐介さんはまた笑って答えます。
「たくさんあるよ。例えばね――」
 そうして一つ一つ、味わいを確かめるように言葉を紡ぐ祐介さんの声に耳を傾けている内に、車は学校の傍まで辿り着いたのでした。

                                      ≪――続く≫

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Posted on 2016/03/20 Sun. 13:05 [edit]

category: 小説:紅葉怪奇譚Ⅰ

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説 
tb: --   cm: 10

コメント

(。・ω・)ノ゙ こんにちは。

…No.1ではコメントせず仕舞いでしたが、しっかりガッツリ読ませて頂いてますよ~。
塩かけ婆ってのはあんまりなあだ名ですね(笑) 婆という歳でもなかろうに…。
しかしなんで幽霊とかそれ系には塩を撒くと効き目があるとされているんでしょうかね。どういう意味があるのか…。

文学好きな祐介さん、彼の書いている小説がもし官能小説だったら…
主人公ちゃんはどんな顔するだろうか??とか考えてしまいましたが…やっぱり官能じゃないですよね?(笑)

URL | いぬふりゃ☆ #-
2016/03/20 15:32 | edit

Re: タイトルなし

>いぬふりゃ☆さん
こんばんは!
おおっ、ありがとうございます^^
いつもより長丁場な物語ですので、時間の都合が合う時に見ていただけたら幸いです♪

塩には腐敗を防ぐ殺菌作用があって、ようは塩漬けとかなんですが……どうやらそういったところから浄化作用のあるものとして扱われてきたみたいです。
他にも神話で神様が身を清める為に海に入ったとかなんとか。
お葬式の後に塩で清めたりするので、なんとなく「人」の霊には効く!というイメージで書いております。

祐介君はけっこう裏設定のある人物なのですが、やっぱり官能は書いてないみたいですよ。笑

URL | 夢月亭清修 #-
2016/03/20 23:38 | edit

祐介さん登場ですね♪
祐介さん優しいですね。そして小説書かれてるとは!ジャンルは何だろ?ミステリーとかかなー。私も読んでみたいです(笑)
言葉知ってるのって強いですよね…小説書いてて、毎回自分の語彙力の無さにウンザリします…。もっと本を読まなければp(・ω・)q

相田みつをさんの詩、沢山は知りませんが、とてもいい詩を書かれますよね(*´ー`*)私も外灯つけられるような人間になりたいです(´-`)

紅葉ちゃん塩まいてるとこ見られちゃったんですね(^_^;)それは皆から避けられてしまう。しかも塩かけ婆とはひどい(笑)
高校ではそういうのも含めて受け入れてくれる素敵な友達が出来るといいんだけれど…。そして教室に幽霊がいるとは(笑)なんだかまた何かが起こりそうな予感(笑)

URL | たおる #-
2016/03/21 17:24 | edit

Re: タイトルなし

>たおるさん
こんばんは!
祐介君は正確に似合わず、なかなか男らしい作品を書く――という設定だった気が…w
ほんと、語彙って書いてると滅茶苦茶欲しくなりますよね。
漢字とかもいちいち不安になってネット辞典見ることが多かったりします^^

この「外灯」の言葉もそうですが、祐介君のセリフはちょっとだけ物語の後半にも生かされてきます。
更新に時間がかかりますが、覚えておいていただけたら幸いです♪

ほんと、婆は言い過ぎですよね!誰だ!そんなこと言い出した奴は!(僕ですね。笑)
さてさて、紅葉に友達ができるのかできないのか……こうご期待です^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/03/21 22:52 | edit

こんばんは^^
紅葉ちゃん、今朝も登校前に大変ですね。
彼らは時と場合を選んではくれ無さそうですし。
(夜しか現れないというのも、ちょっと変な話ですもんね。きっと年中無休のような気が・・・)
第2話は、祐介さん登場なのですね。
優しそうで、こういう人がいたら癒されそう。
この後の登場も楽しみです。

さあ、気になるのはは学校生活ですが。高校にもやっぱり、厄介なのがいるのでしょうか・・・。

URL | lime #GCA3nAmE
2016/03/23 02:19 | edit

Re: タイトルなし

>limeさん
こんばんは!
逢魔が時とか丑三つ時と言いますし、やっぱり薄暗い方が色々なモノに遭ってしまうような気もしますが、紅葉怪奇譚の世界ではたぶん年中無休っぽいです。笑

祐介君は実は目立たないキャラなのですが、必ずと言っていいほど「格言」を物語に差し込んでくれます。
なんとなく彼がいるとテーマが明確になるというかなんというか……w

三話目からは学校も描かれますので、是非是非、お時間よろしい時に遊びに来てください(∩´∀`)∩

URL | 夢月亭清修 #-
2016/03/23 03:07 | edit

朝はアタフタしていると時間がパッと過ぎちゃうんですよね。
実はグッドタイミングで登場してくれた祐介さん? 優しいんですねえ。
ぼちぼち、という言葉には色々な意味があるのですね。
頭の上のはてなマークに親近感が^^ 人間だものっ^^

紅葉ちゃんは、学校という枠の中では何かと窮屈な思いをしているのかな。
学校でのお友達との会話が気になりますね。
仲良しのマスターさんは次回かな。
ゆっくりと追ってまいります^^

URL | けい #-
2016/05/04 19:05 | edit

Re: タイトルなし

>けいさん
こんばんは!
そうそう、朝って時間の感覚がちょっぴり違いますよね^^なんだか早く過ぎていくような……(もっと遅く感じたいものですw)
ぼちぼち、は「そろそろ」とか「まぁまぁ」とか、地域によっても使い方が違うみたいですね。
関西ではないのになぜか紅葉は関西使いのようで。笑

そうなんです、人間だものwみんな頭の上には?ですよ。
この頭の上に?的な表現ってついつい多用してしまいます。

紅葉の学校生活は窮屈そうというか何というか……友達が一人も……^^:
マスターは次の次だったかな? ちょっと遅めの登場です。
是非お楽しみに^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/05/04 21:42 | edit

こんにちは。
今日は二話目を拝読させていただきました。

学校って、例えばオカルト系に精通してる子って
敬遠されるか一目おかれるかどちらかに二分されて
しまうと思うのですが、紅葉ちゃんは前者のほうなのですね。
こんなにいい子なのに、クラスメイトの人たちは見る目がないですね!
っと場外からちょっと憤慨してみたり(笑)

人の形の幽霊には塩が良く効くという記述が大変興味深かったです。
やっぱり塩って特別で神聖なものなのですね。
前、何かで読んだのですが、どうも「海水」がその手のものに効き目が
あるらしくて、でも海水を持ち歩くわけにはいかないから「塩」を
使うんだみたいなお話をふと思い出しました。

祐介さん自身がまるで外灯のようにあったかくて
人を導いてくれるような安心感を醸し出してる方ですね……
紅葉ちゃんは同級生には恵まれなかったかもだけど
こんなに素敵な方が周りにいるんだとわかって安心しました。

祐介さんのセリフが物語の後半にも生かされるということで
重要なキャラの予感です。
わたしの中ではイケメンさん確定でもあり(笑)なんだか非常に印象的なキャラでした(^^*)

URL | canaria #-
2016/05/07 10:42 | edit

Re: タイトルなし

>canariaさん
こんばんは!
二話目の読了ありがとうございます^^

紅葉は「塩かけババア」なんて呼ばれていたくらいですから、相当取り乱して塩を巻いていたのではないでしょうか?笑
いい子なんですが、中学生という微妙な時期、理解者を得るのは難しかったようです^^;

塩には腐敗を遅らせる力(食料の保存などで)があるので、そこから魔を寄せ付けない、という考え方が生まれたそうですよ~。
ですからそもそも海が発信なんですよね、きっと。
このお話では敢えて「人の形」という縛りを設けているのですが、自分の中で清めの塩と言えば仏葬のイメージなので、そういう文化上にあった存在には有効――みたいに考えてみました。(自分の勝手なイメージですが…)

祐介はメガネです。見た目に関してメガネと言う記述しかしておりません。笑
なので容貌のイメージは超自由w
canariaさんの中でのイケメンフォルダに入れてもらえて嬉しいですw
後半に生かされる、と言うよりは暗示的なセリフと思っていただければ幸いです^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/05/07 23:55 | edit

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