夢月亭~下手の横好き~

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小説:紅葉怪奇譚 『紅葉の相棒』 No.1  

   紅葉怪奇譚 『紅葉の相棒』 No.1

 ――≪開幕歌(2016.03.17書き下ろし)≫――

 柿川望む稲荷の表

 佇む貴女の夢を語りて

 語り部は非じ

 夢現なればこそ

     *

 多くの人達が行き交い、言葉を交わし、走る車の音騒々しい――いわゆる喧騒というモノが駅前の繁華街にしか存在しない場所、ここはそんな地方都市。駅から車で三十分も走れば、景色は繁華街から住宅街へ、住宅街から田園風景へと姿を変えます。そうここは、都市を謳ってはいても、とても小さな町なのです。
 広大な田園風景は山々の麓まで続き、そそり立つ雄大な山は壁となって青い空以外の景色を覗かせてはくれません。あの壁の反対側には別の町があるのでしょうか? それとも、樹海の生気が凝って形を成した、妖魔や神々の踊る深山幽谷へと続くのでしょうか? この町で生まれ、この町で育った私には知る由もありません。ただ、地図で見る限りだと前者が存在しているようなのですが……。
 ともあれ、この町を出たことも無いような田舎娘の私ですが、それでも悩みと言うモノは尽きません。十代半ば、青春の真っ盛りですもの、致し方ありませんよね? でも――
 私がごく普通の娘であったなら、何に悩んだでしょう。勉学のことでしょうか? 将来についてでしょうか? 友人との仲違いに溜息吐いていたでしょうか? はたまた、恋の悩みだったりして………。
 私の悩みは、そのどれでもないのです。では、深窓の令嬢が身に纏う、儚くも美しい影のようなそれでしょうか? いえいえ、もしそうだったのならどんなに良かったことでしょう。深窓の令嬢の悩みなど想像も付かないままに羨んでしまう私、先程言った通り、田舎娘の私――私の悩みは、はた迷惑に眉の根本を寄せるような、ただただ困りあぐねてしまう類のモノでして…。
 幼い頃からそうなのです。原因は分かりません。ただ、私の名前が第六天魔王に祈り届けられ生まれた岩谷の鬼女と同じものだと知ったときは、だからかしら? と首を捻ったものです。たぶん、それはまったく無関係な事柄なのでしょう。私の両親が第六天魔王に祈って私を生んだとは、どうしたって思えませんから……。
 原因不明、つまり科学では解明されない私の悩みとは、生まれたときからの体質、変えようのない私の体質なのです。言うなれば視えてしまうこと、聞えてしまうこと、触れられてしまうこと――でしょうか。この世のモノならざるモノ達に――。
 それは時に、幽霊と称される死者の妄念です。
 それは時に、妖怪と称される何かです。
 それは時に、悪魔と称される信仰の影です。
 それは時に、それは時に、それは時に……。
 そう、多種多様な怪異と出会ってしまうこと、そして、それら全てを確かな存在として感じてしまうこと、これが私の悩みなのです。
 私はこの悩みの為に、友達のいない、寂しい十五年間を送ってきました。いえ、学校では、という話です。マスターと祐介さんと翠さん、そして宗次郎さん、この三人と一匹がいたから、私はそれでもやってこれましたし、もう一度友達作りに挑んで花の高校生活を満喫しようと意気込んでいたのです。
 冬になると雪の降るこの町では、まだまだ蕾の桜がようやく目に留まるようになった四月の頃。春の便りもまだ微かな入学式――その日、私のささやかで切なる期待を挫くかのように、出会ってしまった一人の幽霊のお話は、この物語の口火を切るに相応しいかと思われます。
 ようこそ、紅葉怪奇譚の世界へ。
 案内人は不肖私、柿川紅葉(かきがわもみじ)が務めさせて頂きます。
 どうぞ、ごゆるりと。

     *

 さてさて、私は走っていました。日差し豊かな朝、時刻は通勤の為に駅に向かう人達がちらほら見えるくらいの、そんな朝です。学校へ向かうはずだった私は、ただただ我武者羅に住宅街の中を全力で駆けていました。
 物語の始まりに高校一年生の私が朝日の中を走ると言えば、食パン咥えた快活な遅刻学生を想像するところかも知れませんが、決してそうではないのです。だからこの先の曲がり角で素敵な男性とぶつかったりするような展開は勿論ありませんし、食パンだって咥えていません。
 先程申しました通り、時刻は通勤ラッシュよりも前の比較的早い時間帯です。朝に強い私は朝食を家で済ませ、身支度を整えて家を出ました。部活動に参加していない、朝練の無い身としては早過ぎるくらいの出発です。なのに、人見知りで引込み思案な私は、恋に落ちる快活な遅刻学生と縁遠い私は、それでも走っているのでした。
 体育の授業は苦手ですが、だから鍛えようという志から走っているのでもありません。走るのなんて本当は嫌なのです。でも、それでも今は走らなくてはいけないのです。切羽詰まった、それ相応の理由が、私の背後に忍び寄っていたのですから――。
「嫌、お願いだからっ、どっかいってよっ……」
 息を切らせながらそう呟いても、それは一定のペースで私の後を追って来ます。こんな時はいつだって自分の鈍足を呪いたくなるものですが、それを嘆くよりもまず先にと、私の足は見知った住宅街の中を右に左に曲がり角さえあれば曲がるというくらい、滅茶苦茶に突き進んで行きます。考えるより体を動かせ! と、運動音痴な私が自分の危機に瀕して辿り着いた答えがそんな陳腐な言葉なのですから、どうにも諧謔的です。
 今日は油断していました。温かい春の日差しに浮れてふらふらと、また少し桜が花をつけたな――なんて呑気な心持で歩いていたから、うっかりあの四辻を渡ってしまったのです。
 あの四辻、とは――それは私の家の近所にある、車も通れないような細い十字路のことです。南町の中にある十字路だから、私は勝手に南十字なんて呼んでいるのですが、この道が私の体と非常に相性がよろしくないようで……。ここを通ると高確率で怪異と出会ってしまうのです。姿無きモノに呼びかけられたり、今日みたいに異形の何かに追っかけられたりと、今まで何度もそのような経験をしています。
 マスターからの受け売りですが、四辻は和洋問わずこの世とあの世の入り口と考えられているそうです。四辻の四という数字がいけないのでしょうか? 四つの方角へ延びる道――つまり四界へ通ずる、死界へ通ずる……って駄洒落かっ! と思わず突っ込みたくもなりますが、ともあれ私にとってこの道は本当によろしくない。この南十字は霊道、つまり死者達の通り道と重なっている為、余計私には良くないらしいのです。
 そんな道を懲りずにまた通ってしまう私って、なんて抜けているのでしょう……余計に悲しくなります。
 そんなわけでして、とにかく今は走らなければなりません。黒くて、形が良く分からなくて、目玉をそこかしこにいくつも携えた異形の何か、何か邪な気配をふんだんに纏うその何かが、ずりずりと体の一部をアスファルトに擦り付けながら、私の後を追って来るのです。捕まってしまったら、その後私がどうなってしまうのかなんて――嗚呼、考えただけでも恐ろしいです。
 しかし幸いなことに、その異形、私は「塊」と呼んでいるのですが、塊は得てして早い動きを見せません。こうしてやたらめったら曲がって走っていれば、私のような運動音痴にも撒くことができます。
 これもマスターからの受け売りですが、塊は色々な死者の妄念なり小さな妖怪なりを取り込んで次第に膨らんでいく、霊とも妖怪とも種を異にした怪異だそうで、それら妄念の塊ゆえに、想いのベクトルが一定に定まっていないのだそうです。俊敏に動けない理由もそこにある、とかなんとか。苦しみを訴えたいのか、妬ましさを訴えたいのか、道連れを探したいのか、悪戯をしたいのか、そこが定まっていないんだそうで……。私には全部同じベクトルの想いに聞こえてしまうのですが……。
 ともあれ、今私を追う塊は、これまで私が目撃してきた塊同様に俊敏ではありません。どうにか逃げ切れそうです。ただ……
 ただ、滅茶苦茶に道を突き進んでしまったので、いつしかすっかり駅とは逆の方向へと私は進んでいました。見知ったはずの住宅街も、焦りと恐怖に揺れる心の前には迷宮と化し――でしょうか。
 嗚呼、どうしよう、バスに間に合わないかも知れない……。
 塊を撒いて、ようやく膝に手を突いて休めた私の口からは、切れ切れの息が長い溜息を分割させていました。
 私って、どうしてこうなのでしょう…。

                                       ≪--続く≫

次話→『紅葉の相棒』No.2


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Posted on 2016/03/17 Thu. 17:34 [edit]

category: 小説:紅葉怪奇譚Ⅰ

thread: 自作小説 - janre: 小説・文学

tag: 小説 
tb: --   cm: 12

コメント

こんにちは!

新作ですか?アイデアはどこから出てくるんでしょうか?!
私はよくアイデアが枯渇するので正直羨ましいです(´;ω;`)

あ、私は妖・密事シリーズのレディさん凄く好きです~。
前回書き忘れたので(;´・ω・)

口調とか堪らなかったです(笑)

今作も楽しみにしてます~(n*´ω`*n)

URL | みろり #-
2016/03/18 13:36 | edit

Re: タイトルなし

>みろりさん
こんばんは!
新作ではなく在庫(黒歴史w)からUPしています♪
完成作品なのでテンポよく掲載するよていです^^どうぞご贔屓に。

アイデアは妖怪図鑑とか見ながら考えたりしています。笑
みろりさんのようなデザイン系のモノは確かにネタ探すの大変そうですね……

おおっ!キャラクターを気に入ってもらえるのは本当に嬉しいです♪
ありがとうございます!
レディは僕も気に入っています^^妖・密事シリーズにはゆる~いキャラが少ないので、あれでもギャグ担当のような気がしますw

是非、また遊びに来てくださいヾ(・ω・。`)

URL | 夢月亭清修 #-
2016/03/18 23:38 | edit

たのしい^^

紅葉さん、かわいいですね^^

すごく厄介な体質だと思うし、悲壮な日々だと思うのに、何となくコミカルで。
朗読風の一人称というのも、新しい感じがします。
私も、霊なのか邪念なのか、そう言う類に脅かされる主人公の物語を連載していますから、なんがすごく親近感。

霊感があっても、得体の知れない連中の正体が分かるわけでも、「霊界というものはね」なんて説明できるわけもないですよね。
なんか、分からんものに追われた>< って感じ、好きです。

URL | lime #GCA3nAmE
2016/03/19 10:36 | edit

おお!これですね♪

始まりの「あの壁の反対側には別の町があるのでしょうか? それとも、樹海の生気が凝って形を成した、妖魔や神々の踊る深山幽谷へと続くのでしょうか?」って部分がすごく好きです。
紅葉さんはこの町から出たことがないんですね。
町から出たことないとそういう感覚になるのかっていう新しい発見と、そこからまた物語が広がりそうでワクワクします。何か出れない理由とかあるのかな……。

そして、紅葉さんは見えないものが見える体質なのですね。
どんな幽霊に出会ったのかな。続きが気になります((o(´∀`)o))ワクワク

URL | たおる #-
2016/03/19 14:18 | edit

Re: たのしい^^

>limeさん
こんばんは!
ありがとうございます♪紅葉に関しては少し親馬鹿なのでw可愛いと言っていただけると超嬉しいですw
確かに、十五年間も友達がいなかった子なのでもう少し暗い性格でもいいのかな…と思いながら書いていました^^
ですがあくまでコミカルに進む話だったような……笑

おっしゃるとおり怪異って得体がしれませんよね。
だからこそ創作の為の余地があってとっても好きです♪
「死んだらどうなる?」的な本を参考にしたりもしますが、お話の為にオリジナルの妖怪を考えることもしばしば…
「塊」はまさにそんな怪異で、後半にも繋がるので是非是非チェックしてほしいです^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/03/19 21:02 | edit

Re: タイトルなし

>たおるさん
こんばんは!
小さいころに「山の向こうには何があろうんだろう?」って考えたことありませんか^^?
なんとなく自分にそういう記憶があって、怪異の見える紅葉ならそんな想像をするかもしれないと思って書いた気がします♪
出れない理由………きっとご両親が忙しいのかな?笑

次話かその次くらいには本題の幽霊に話が及ぶと思います。
ぜひチェックしてください♪

URL | 夢月亭清修 #-
2016/03/19 21:07 | edit

遅ればせながら、追ってまいりますね。
大人の語りかと思いきや、女の子^^

こちらに話しかけてくれているので、はいと答えてしまいそうです。
これから始まるあれこれが楽しみです^^

URL | けい #-
2016/05/03 19:15 | edit

Re: タイトルなし

>けいさん
こんばんわ!
わぁ! 読んでいただけて嬉しいです^^ありがとうございます!
そうなんです、女の子が主人公なんですよ……(書いているのが男というのは忘れて下さい!w)
読んで下さる方が紅葉と友達のような感覚になってくれたら嬉しいです。
是非、楽しんでいただけたら幸いです^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/05/03 23:38 | edit

こんにちは〜!
「紅葉怪奇譚」、カテゴリを拝見していて前々から気になっていたのですが、
なんと主人公「紅葉」の名前を冠したタイトルだったのですね!
上品な一人称がこの物語全体の雰囲気に何ともいえず
マッチしていて独特の風合いが文章全体から匂い立つようでした。

そして「塊」ですか!
「魂」と一瞬読み間違えそうになったのですが違うのですね。
思わず辞書で調べてしまいました。
「かたまり」と呼ぶのですね。

幽霊、妖怪、悪魔、いろんな呼び方があるけれど
わたしはこれらの概念について考えたり妄想したりするのが
好きなので紅葉ちゃんの語りにとっても引き込まれてしまいました。

四辻で出逢った「塊」の正体は何なのか……。
マスターがいうことには「塊」は本人にも自分の目的や想いが
何なのかわかっていない感じなのですね。
ちょっとかわいそうな感じもしつつ……
紅葉ちゃんは必死なんだけど、どことなく見ていてほんわかしてしまうところも
魅力的ですね^^

気になる続き、引き続き見守らせて頂きます!

URL | canaria #-
2016/05/06 19:43 | edit

Re: タイトルなし

>canariaさん
こんばんは!
ありがとうございます^^読んでいただけてとっても嬉しいです!
匂いましたか?wこんな語り口の女子高生なんていないんだろなぁ…と書きながら思っていたのですが、雰囲気を味わっていただけたようでホッとしました♪

オカルトな物事の概念って色々な考え方があって複雑ですが、結局のところ自由に想像していいモノですよね^^(たぶん…)
なので僕もそういった妄想は大好きで、気が付くと妖怪やら幽霊の話ばかり書いてしまいます。笑

「塊」はそれこそ僕の妄想の産物ですが、色々取り込み過ぎて肥満気味です。
肥満VS運動音痴の追いかけっこ、は一応運動音痴の勝ち!笑

続きも見守っていただけると幸いです^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/05/06 23:05 | edit

わけのわからんものが……

暑中お見舞い申し上げます。
大阪はすっかり真夏で、脳みそがとろけています。

とろけた脳みそで読むには、こういうホラー系、ぴったりですね。
わけのわからんなにかに追われている、フツーの人間にはわけのわからん体質の美少女……ですよね。

フツーの人間も日々、なにかに追われて生活していますが、追いつかれても取って食われたりはしないからなぁ。

紅葉ちゃんは追いつかれると心を食われるとか、もっともっと怖いことが起きるとか。
もっともっと怖いことってなんだろ、と想像しつつ、続きを読ませていただきます。


URL | あかね #-
2016/07/30 12:43 | edit

Re: わけのわからんものが……

>あかねさん
暑中お見舞い申し上げます。
梅雨が明けた途端物凄い暑さになりましたね^^;
埼玉東京らへんでも脳みそ溶けそうでした……

夏はやっぱりホラーですよね!
僕も最近ネットでちょこちょこ怖い話を探したりしています♪
紅葉は仰る通り、わけわからん体質の(美……かどうかは語られていませんw)少女です。
よく分かんないモノに追われたり絡まれたりしますが、実はあまり怖い内容にはなっていません。笑
ゆるーく楽しんでいただけたら幸いです^^

URL | 夢月亭清修 #-
2016/07/30 22:28 | edit

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