夢月亭~下手の横好き~

夢月亭清修の小説&バス釣りブログ♪小説の更新情報・小説・釣行記録・その他諸々掲載してます★

scriviamo! 2017 参加作 『フィッシュ&ソルト』  

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(当作品は小説ブログscribo ergo sumの管理人、八少女夕さん企画のscriviamo! 2017参加作品です。)

   『フィッシュ&ソルト』  夢月亭清修
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 夏――気の長い太陽が、それでも傾いてゆく夕刻の浜辺で、海猫の鳴き声が響いた。
 紅に金を混ぜた強烈な色彩に呆けたツラを向ける僕は、嗚呼、仕事で汗を吸った開襟シャツが、潮風で乾く程にはそこで突っ立ていて――。

 ほんの数時間前に、酷く衝撃的な事態に見舞われた。
 傷付いた僕の心は、自然とこの場所に、ただ立つのを選んでいた。

 昔からそう、この町に生まれ、この町で育った僕は、傷心の度にこの海を訪れている。
 学生の時分なら、この後は仲間を集めて夜通し騒ぐ事を更なる慰めとしていたのだけれど、さぁ、今回はどうだろう――幼馴染達も皆就職して、中には家庭を持った人もいる。

 さすがに今回は無理か……。

 そう思って、広大な海に背を向けた時、ポケットから着信音が聞こえた。
『シロギス大量! 今日はキス天パーティー開催!』
 幼馴染の一人、大ちゃんからのメールだった。
『直ぐに行くよ』
 返信し、彼の家へと足を向ける。
 夜通しは無理かもしれないけれど、まるで恒例行事の方から僕を呼んでくれたようで、嬉しかった。

     *

 大ちゃんの住むマンションの部屋は、部屋数こそ少ないものの立派なダイニングがあって、カウンターキッチンが彼の自慢だった。
 バーカウンターよろしくそれを利用して、今日のお客は僕と岳やん。僕達の目の前に、次々と揚げられたキス天が並んでゆく。
 大ちゃんの作る天麩羅は卵を使わない衣をサラダ油で揚げた、所謂関西風。キスの身の色と相俟って白く、その無骨な手が作ったとは思えない程繊細な仕上がりだった。
「いいねいいね! めっちゃ美味そう!」
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 出来上がりをはしゃぐ岳やんが早速箸を伸ばして――あっ、と声を上げた。
「大ちゃん、早く天つゆ出してよ」
 天麩羅は天つゆで食べる物、それが岳やんのイメージだったらしい。大ちゃんはそんな彼に呆れたように言った。
「ばーか。天つゆに漬けたら薄い衣が台無しだろ? 塩振ってあるからそのままイケ。素材を味わえ」
 言われて、じゃあと頬張った岳やんの顔が笑った。
「ウマッ! めちゃ美味いよ! やるね大ちゃんっ!」
 だろ? と得意げな大ちゃんが、今日の釣りが如何に素晴らしかったかを語り出す――そう、今揚げられているキス達は、全て大ちゃんが釣り上げた魚達だ。
 とれたて新鮮、それが大ちゃんの手に掛かって、不味いわけがない。

「ほれ、智ちーも食え」
 勧められて、僕も箸を伸ばした。
 頬張れば、薄くても心地よい衣の食感が歯に弾けて、ふわっと柔らかい身が舌を唸らせる。
 淡泊なのに、甘い――。
「美味いだろ? 塩が魚の甘みを引き立てるんだ」
 ニカッと笑った大ちゃんに、僕は頷いた。
そして――

「お、おいっ! どうした智ちー!」
 大ちゃんと岳やんが、驚いた顔で僕を窺っている。
 無理も無い。僕が、大粒の涙を零しながらキス天を頬張っているのだから。
「智ちー……なんかあった?」
 心配そうに目尻を下げている岳やんが、優しくそう聞いてくれて、僕は頷いた。

 大ちゃん、岳やん、ごめん。
 あの頃のように騒ぐつもりで来たのに、どうやら無理みたいだ。
 騒ぐ前に、聞いてくれないか?
 僕は、あの娘と結婚したかったんだよ――。

 大ちゃんが差し出してくれた缶ビールを嗚咽と共に飲み込んで、僕は語り出した。
 人生は甘くないけれど、この涙が、いつかその甘みを引き立ててくれるに違いない。
 そう、願いながら――。≪了≫


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Posted on 2017/01/16 Mon. 04:06 [edit]

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小説:朱松骨董品店 『人喰い銀狐』  

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小説ブログ「DOOR」の管理人・limeさんの描かれた絵を元に物語を書く、≪妄想らくがき企画≫に参加させて頂きました!

企画のページはこちら→(妄想らくがき企画)+(scriviamo!参加イラスト) 『狐画』

本当に素敵な絵なのですが、エログロ寄りな話を書いてしまって申し訳ありません(´・ω・`)

☆―――――――――――――――――☆

 朱松骨董品店『人喰い銀狐』    夢月亭清修


 裏の裏は表ではあるまいか――否、裏にも裏が実在せんと言わんばかりの路地裏は、迷い人か野良猫渡す程度の賑わいの、なれども古惚けた骨董品店あり。
 煤けた弁柄格子に、こちらも煤けた木目の看板掛け、読めば薄っすら『朱松骨董品店』と書いてある。
 迷い人あれば皆首を傾げたことだろう。なぜこのような場所に――と。
 とまれその骨董品店、格子の外から内側を垣間見ること叶わないそうな。事実覗こうとした者の言によれば――「いやぁ、闇ばかりだったさ」と。
 その闇の内側を知る者は、これ如何にも曰くありげに口を閉ざすのだ。

 ある日ある所に、当て所ないそぞろ歩きの青年あり。彼は美術の道志す美大生と言う奴で、絵画のモチーフに困り果てていた。
 歩いてはぶつくさ独り言の、何か佳いモノはないだろうかとそればかりで――敢えて歩いたことの無い道ばかりを選んでいたモノだから、うっかり出逢ったが件の骨董屋、朱松骨董品店である。
 絵を描くことばかりに熱心な青年だもの、骨董なんぞとは縁もゆかりも無い彼だったが、それゆえ惹かれたモノと見える。未知にこそ我がモチーフ在りと、彼は店の引き戸を開いたのだった。
「――いらっしゃい…」
 幽かな声は骨のような、腹巻した老翁から――老翁は店内を所狭しと埋め尽くす雑多な品々にハタキを掛け、どうやらこの店の店主であるらしい。
 青年はその背に断りの一言――あの、見せて頂いてもよろしいですか、と。
「――うん」
 青年を振り向きもせずに頷いた。買う気の無い青年には有難い商売気の無さか、それにしたって反応は薄い。
 とまれ何か佳いモチーフは――と、再びぶつくさし始めた青年の目に飛び込んできたもの、それ、女の肌であった。
 野に伏し、一糸纏わぬその姿は躍動さえ覚えずにはいられない野生美――いいや、その雪花石膏のように白い肌が誘うのは青年の確かな劣情であって、野生の情婦などと表現すればしっくり嵌るか――これも否。
 何となれば、それは不思議な魅力を湛えた一枚の絵であった。銀色の髪と尾、そして狐のような耳を持つ艶めかしい女の絵。野生やら情婦やらと表現するのも馬鹿馬鹿しい程、それはただソレとしか言いようの無い存在感が女にはある。
 自然、青年は呟いていた――凄い、生きているみたいだ――と。
 壁に掛けられた女の絵に、青年は吸い寄せられるかに歩み寄る。と、青年と女の目が合った。確かに合った。動くはずのない絵の中の女が、青年の顔を上目遣いに眺め、微笑さえ零したではないか。
 瞬間――青年は一も二も無く店を飛び出していた。その絵に恐怖したからではない。絵の中の女に、心奪われたような気がしたゆえである――。

 その日を境に、青年には眠れぬ夜が続いた。頭の中には件の女のことが犇めいて寝付けず、ようやく寝付けたかと思えば夢にも女、その淫夢とあって不快な寝汗を粒と浮かせて目が覚める。
 女、女、女――狐のような女――一週間も過ぎた頃には人が変わったよう。青年、その双眼の下に隈が三重にもなって、あれほど画家たろうとの心意気に燃えていたのが嘘のよう。今はさながら薬物中毒者か、モチーフのことなど心の片隅にも無いと見える。
 嗚呼そして、そんな眠れぬ夜も二週間を過ぎた頃、彼、やがては苦しみの中で決意する。夜半にあの骨董屋に忍び込んで、あの絵を盗んでしまおう――と。
 いいや、彼の思い描く行為を語れば「盗む」が一等の表現なれど、彼自身にしてみればその意識と言葉は違ったかもしれぬ。

 あの女を抱きに行くのだ――と。

そうだ、青年は夢に見る程、あの女が欲しくて欲しくて堪らなかったのである。

 あくる朝、変わらず店の品々にハタキを掛ける老翁が独り言に曰く。
「まったく……お前はホンに若い男が好きだのぅ、銀狐や……ほどほどにせんと、お前自身が変わっちまうだろうに……」
 見れば絵、満足げに微笑む女の口元に、べっとりと赤い絵の具をぶちまけていた。

                                            ――了


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Posted on 2016/02/02 Tue. 00:39 [edit]

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